長靴持って修学旅行
(前頁より)



国内修学旅行の朝が来た。
校門の前には旅行に行く子供たちや親たちが集まっている。
旅行にいく用意をした子供たちと、いつもの通学姿の子供たちがいる。
やがてバスが来て、リックサックやボストン・バッグの子供たちはペチャ
クチャしゃべりながら乗り込んだ。

「バイバイ」
残った数十人の子供たちも屈託なく手を振り、バスが見えなくなると、
授業を受けるため教室へ向かった。



読者諸氏は、(バスに乗り込まなかった子供たちは、多分貧しくて修学
旅行に行けなかったのであろう)と想像するであろう。
ところが、そうじゃないんだ。
(では、日を変えて出発するのじゃない?)
これも外れである。諸君、固定観念は捨ててほしい。

残った連中は、既に先々週フランスへ修学旅行に行って来た子供たち
なのである。
「そんな馬鹿な。同じ学年で二つの修学旅行なんて、それも海外組と
国内組なんて。差別じゃないか」
と興奮する社会正義派の読者もいよう。
まあまあ怒らないでくれたまえ。ここは英国なんだから。

でもこれは、紛れもない事実なのである。この学校では二つの旅行が
あっても、PTAで全然問題にならないところが面白い。
海外旅行先がフランスであるのは、ブルックランド小学校は公立である
が、4・5年生のクラスではフランス語の授業があったからであろう。

実は、翠ちゃんはフランスの修学旅行に参加していたが、
「最近入学して来た日本人の少女アキコのために、できれば国内旅行
にも一緒に行ってもらえないだろうか」
との校長先生の要望に、憶良氏は快く応えて、二重の出費をしていた。
4人の子供たちがお世話になっている、親切なブルックランドの先生方
のご要請とあれば、喜んで出来る限りの協力をする気持ちであった。


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