王室外交 アスコット

(前頁より)



右手遥かかなたの直線コースに、ゴマ粒のようにみえた馬車が、大衆
席の大喚声とともに、憶良氏夫妻の座っているグランド・スタンドに次第
に近づいたとき、二人は驚きの声をあげた。



なんと、プロセシング・ドライブを来る先頭の馬車には、皇太子殿下(後
の平成天皇)とエリザベス女王が乗られ、次の馬車には美智子妃殿下
(後の皇后)とエジンバラ公爵が、そしてチャールズ皇太子と皇太后の
馬車が続いているではないか。

グランド・スタンドに着いたときの観衆の歓迎ぶりは大変なものであった。
女王は大観衆に応え、いつも変わらぬスマイルで手を振られ、パドック
へ向かわれた。

「まさか皇太子殿下ご夫妻がアスコットにお見えとは知らなかった」
「去年の樫山さんの馬、今年の皇太子ご夫妻といい何かのご縁ですね」
憶良氏の影響で美絵夫人も運命論者になったらしい。

「第1レースは6ファーロングスとなっていますが、どれくらいの距離なの
ですか?」
「ファーロングというのはもともと畝(うね)、それも溝の方でね。英国独
特の単位なんだ。1ファーロングは220ヤードつまり約200メートルだ。
だから6倍すると1200メートルの短いレースだ」

「ファーロングスの換算にはマイル(参る)ますねぇ」
「アッハッハ上手い洒落だ。こりゃすごい、ピゴットが6レースのうち5レ
ース騎乗する」

「ピゴットって、なんですか?」
「レスター・ピゴット。いま大活躍中の名騎手さ。何にも知らずに来たけ
ど、こりゃ今日は本当についているよ」

ファンファーレが吹かれた。さあ伝統のチャンピオン・デイが始まる。


ピゴットはこの日5レースのうち3勝しました。
彼は1975年のアスコットで名馬SAGAROに騎乗し優勝していますが、
1976年も前年度優勝馬として出走、驚いたことに見事連続優勝しまし
た。

皇太子殿下と美智子妃殿下がレスター・ピゴットに賭けられたかどう
かは知りませんが、時の名騎手の騎乗は楽しまれたことでしょう。
最近日本では武豊騎手の活躍が、英国の誇る名騎手レスター・ピゴッ
トに比較されています。

そこで、憶良氏はいつかPART3『UKを知ろう』で、ピゴット騎手のプロ
フィールを紹介したいと思います。


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