「デスクリムゾン」とは?

 

「デスクリムゾン」とは、1996(平成8)年にエコールソフトウェア株式会社が

発売した、「セガサターン」対応のガンシューティングゲームである。

エコールソフトウェア株式会社(以下エコール)は、元々はおもにCADソフト開

発をおこなっていた会社であり、1995年にコンピューターゲーム業界に新規参入を

はたしたのだが、当然ながら、ゲーム開発はまったくの未経験であった。しかし

未知の領域に挑むスタッフの意気込みには並々ならぬものがあり、渾身の力がこ

もった本作は画期的、革新的な作品となるはずであった。

がしかし、いざフタを開けてみると…その内容とシステムには少なからぬ問題が

あった。「デスクリムゾン」は発売当初から(正確には開発段階から)、ゲーム

雑誌のレビュー欄にてかつてない酷評を受け、購入者の怒りと失笑をかい、人気

ランキング最下位を何年も独走することとなってしまった…。

 

では何故、そのような酷い評価を受けたのだろうか?

その大きな理由に「難あり」なグラフィックの出来、そしてゲームシステムに問

題点が多かったことがあげられる。そのいくつかをあげてみると…

 

1.プレイヤーが銃を撃って出現する敵を倒す、いわゆる「ガンシューティング

  ゲーム」なのだが、肝心の照準がすこぶる合いにくい。つまり敵に弾が当り

  にくい。

2.初心者は数秒〜1分でゲームオーバー(瞬殺)となる驚異の高難易度。しか

  も被弾の際の「無敵時間」が設定されておらず、プレイヤーは一度被弾する

  と問答無用で続けざまに敵の攻撃を受けまくることになる。

3.敵が画面中の風景・空間設定を無視して、かなり唐突に出現し攻撃してくる。

  また、画面に時々「謎の白い人」(後にゲームファンのあいだで「佐藤」と

  命名される)やムササビが出現するが、これらを撃つと自分がダメージを受ける。

  つまりこれらは撃ってはいけない「味方」なのだが、何とゲーム中にその説明が

  一切なされていない。

4.ゲームオーバー→再スタートの際、無気味な仮面をあしらった社名ロゴが登

  場するが、ボタンでスキップ(飛ばす)することができない。なのでプレイ

  ヤーは、しょっちゅうこのシュールな映像を見させられるはめになる。

5.そして「いくらなんでもこれはないだろう」と思わせるグラフィックの出来。

  パッケージには「全編流れる美しい3DCGの世界」と書かれているが…

  キャラクターの動きは妙にぎこちなく、音楽もそこはかとなくチープ。当時

  の水準にまったく届いておらず、前世代のファミコンを思わせる画面であっ

  た。

 

さらに本作の設定、「世界観」の表現にも、これまた珍妙な箇所が多々見受けら

れるのである。

 

1.主人公「コンバット越前」(以下越前)は、「元医者で軍人、女に弱く、好

  きな食べ物は焼きビーフン」という人物設定。しかしこれはゲームの内容に

  何ら関係のないことばかり。

2.実写とデジタルが組み合わされた、驚愕のオープニングムービーの出来。そ

  こで聞こえてくる越前の声は妙に甲高く頼りなげである。さらに彼のセリフ

  と行動が何だかチグハグである。

3.そしてムービー中、越前の「」のセ

  リフ。「せっかくだから」が、展開上何に対してか解らないうえ、しかも彼

  が選んだ扉は赤くないのである。

 

「せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ」…これは後に、本作全編にただよう

不条理、あるいは「ズレ」の感覚を象徴するものとして、ゲーム業界で最も有名

な台詞となった。

 

…と、こう書くと「デスクリムゾン」は、一般的には不成功作、ゲームの約束事

に疎いメーカーが生み出した駄作として片付けられよう。

しかしながら、「デスクリムゾン」の世界観とセンスには、他のゲームとは趣を

異にする”突き抜けた何か”があり、突如として出現する不条理に身を任せると

いう快感に満ちている。これは、人気ゲームだけをプレイしていては決して味わ

うことのできないすばらしさである。

 

開発会社であるエコールは、こうした逆境をもバネにし、なお意欲的に活動を続

けている。この図太く前向きな姿勢も手伝って、「デスクリムゾン」はかえって

多くの支持を得、ゲーム自体も伝説化し、カルトな人気を獲得していくことにな

ったのである。

「デスクリムゾン」をクリアするためには、住み慣れた「常識」の側にいては到

底ムリだろう。この不条理を共有し「のめり込む」ことができるかどうか、それ

が大きなカギとなるのである。

 

1999(平成11)年に続編「デスクリムゾン2」、2001(平成13)年にゲームバラ

ンスを見直されたアーケード版「デスクリムゾンOX(オックス)」が発売され、

これらはドリームキャスト、プレイステーション2にも移植された。

 ちなみに記念すべき第1作「デスクリムゾン」は現在品薄であり、街の中古ゲ

ームソフト店ではまったく見かけず、まれに発見してもプレミア価格がついてい

る。ネットオークションで手に入れる方法もある(現在はこれが一般的である)

が、いずれにせよ入手が「激難」なソフトのひとつである。

 

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「異端」=「逆先端」 巨大クリムゾン制作意図について

 

 近年の家庭用コンピューターゲームのクオリティの高さには目を見張る物があ

ります。その中には大人気を博し、名作と謳われる作品も多くあります。皆さん

も、そんな名作の幾つかのタイトルはご存知でしょう。

 これまで日本で発売されたゲームソフトの数は、驚くことに優に1万本を超え

ますが、しかしながら実は、そのほとんどが忘れ去られる運命にあるのです。よ

く出来た名作以外はすべて消えてゆく−こうした過酷な生存競争の中で、決して

一般に言われる名作ではありませんが、現在でも熱く語られ、伝説のゲームとた

たえられている一作があります。それが「デスクリムゾン」です。

 しかし、この「デスクリムゾン」が、なぜ伝説と言われているのでしょうか?

美しいグラフィック?思いがけない展開?華麗なるアクション?いいえ、違います。

何故ならそれは「クソゲーの帝王」と目されているからです。

 本来、家庭用コンピューターゲームとは「プレイヤーが期待する楽しみ」を提

供するはずのものなのですが、その概念をひっくり返し、憎しみ、怒り、そして

最後には慰めさえ感じさせる珍妙で奇怪なゲームがあったとしたら…まさにそれ

が「デスクリムゾン」なのです。

 価値観、あるいは常識の逆転・相違は、現代美術の文脈(手法)として当たり

前のようにもちいられていますが、「デスクリムゾン」にはじめて触れた時、コ

ンピューターゲーム作品の中にもそういった文脈(手法)が、偶然にしろ故意に

しろあらわれているように感じられ、大変面白く思いました。

 「異端」=「逆先端」ととらえるならば、「デスクリムゾン」はゲーム界の現

代美術、芸術なのかもしれません。

 

 今回の展示は「デスクリムゾン」に登場する呪われた銃「クリムゾン」を巨大

立体作品として制作、その不条理と狂気の世界をさらに増幅し、分かりやすく体

験してもらうのが狙いです。クリムゾン=バーチャガン(TVモニターの走査線

に反応して画面上の敵を倒す銃型ゲームコントローラー)を巨大に改造すること

によって、普通の状態でさえゲームクリアするのが難しいのに、更に難易度を上

げています。また同時にゲーム史上最も有名で、しかし見た人がごく少ないであ

ろうオープニングムービーについても紹介します。

 Webサイト、コンピューターゲーム上で有名な「デスクリムゾン」とその世界

が、ゲームという範疇を越え、芸術(美術)として皆さんの前に登場します。

というか…家庭向けコンピューターゲームは日々進化を遂げ、すでに芸術的ヴィ

ジュアルを獲得しつつあります。それを感じていただくよい機会だとも思ってい

ます。

 

 最後に、しがない造形作家の話に耳を傾け作品化する許可を下さったエコール

ソフトウェア様、本当にありがとうございました。

 

 「せっかくだから、俺はこのデスクリムゾンを作品にするぜ!」

 

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