2004.6.24
苗場山山頂周辺・高層湿原内登山道(木道等)整備に向けた自然保護運動について

長野県自然保護連盟

はじめに
日本百名山の一つである苗場山頂の広大な湿原の保護について,2002年より長野県自然保護連盟として継続的に調査と関係者への要請を行ってきた。主たる問題点は,高層湿原に無処理のままつけられていた旧登山道を整備するため,約1Kmを長野県が木道設置しようとするものである。 連盟としては,現在の登山道が高層湿原を破壊し,荒廃をもたらしていることから緊急な対処が必要であると考えるが,現在の登山道に,直接木道を設置することは新たな自然破壊であり,保護とはならないと考える。 過去ならいざ知らず,回復不可能な高層湿原を破壊して木道を設置することは到底容認できない。荒廃をもたらしている登山道は撤去が望ましいが,もし,整備するなら高層湿原は避けて,せめて周辺の笹原や森林地域に破壊を最小限にした歩道を計画して欲しいと長野県など,関係者に要請を続けている。
 この自然保護運動には,日本自然保護協会や各種山岳団体にも協力をいただき,徐々にではあるが要請の成果を得つつある。今後とも宜しくご支援のほどお願い申しあげます。

1.地域の概要と所在地の現状
苗場山は上信越高原国立公園の北端に位置し、新潟県津南町と長野県栄村にまたがる標高2145mのアスピーテ(楯状)火山である。山頂台地は南西方向に緩やかに傾きながら南北4km東西1kmにおよび、オオシラビソの原生林に囲まれた無数に点在する大小さまざまな池塘を持った大規模な高層湿原が広がっている。日本百名山にも名を連ねている苗場山は毎年多くの登山者が訪れ、その自然環境の保護は特に重要である。この山への一般的な登山ルートとして、新潟県側は赤湯温泉から直接苗場山に登るルート,赤倉山(1938m)経由ルート,及び湯沢と十日町方面からの登山道が途中神楽ケ峰(2030m)で一緒になり苗場山頂上に至るルート,がある。長野県側からは秋山郷からと小赤沢からの2ルートがあり、現在は後者が一般的である。今回問題となっている登山道は、このルートとは別に佐武流山(2192m)から赤倉山を経由するものであり、昔の地図では登山道として示されているが、現在は残雪期以外ほとんど利用されていない。このルートが問題となったのは、佐武流山への登山道が整備され、佐武流山から苗場山へのルートが開通する見通しとなったためである。
現在,苗場山頂における高層湿原内の既存の登山道はほぼ木道が設置されている。しかし,一部では木道の周辺は荒れて表土の流出が激しく,丸太や石などで防いではいるが年々その範囲は広がっている。今回の登山道は木道が設置されていないため,ぬかるみのままとなっているところでは,登山者が脇へ脇へとそれて歩くため,裸地が広がり植生の荒廃化が進んでいる。現在,ルートの入口付近にロープを張り立ち入り禁止としているが、完全に防止するにはいたっていない。その面からも早急な対応が望まれている。

2. 保護運動の経過と長野県の対応
2002年12月。長野県自然保護連盟は長野県に対して要請書を提出し回答を得た。
2003年7月2〜3日にかけて当連盟は長野県・栄村・環境省等との合同調査を実施した。
2003年8月。当連盟では上記調査を受けて昨年の要請に修正を加え,県に対して再要請書を提出した。
当連盟の再要請の基本は 1:現在の歩道は閉鎖する。 2:それに代わる登山道として自然破壊のより少ないルートを調査検討する。の2点である。
長野県の回答は,1;今年度の整備は延期し自然環境への影響調査をする。2;今後、植物等の専門家に当連盟も加わり整備を検討していく。というものであった。
2003年11月。 苗場山登山線歩道整備検討会が,松田松二(県自然保護研究所)座長・中堀謙二(信大農学部)・渡辺隆一(長野県自然保護連盟),及びオブザーバーとして宮川幹雄(栄村観光課)・県環境自然保護課担当をメンバーに設置され,3回(2003/11/18,12/16,2004/1/20) 開催された。
検討に当たっては,以下の5ルートを以下の観点から比較検討した。   
@現道ルート,A現道一部迂回案,B東(県境)迂回案,C西側迂回案1,D西側迂回案2
・ 貴重な湿原への影響を小さくするため、湿原植生・池塘の通過を出来る限り少なくする。
・ 湿原の池塘から、原則として約20メートル以上離れた場所を通過する。
・ 湿原植生以外の通過に当たっては、樹木の伐採等を少なくする配慮を行う。
・ 自然とのふれあい、学習効果の発揮、登山者の利便性などについても配慮する。
・ 湿原の植生荒廃の進行を防ぐため、早急な対応についても配慮する。       とした。
これらの検討の結果、「湿原内を通過している現道の西側部分を迂回する路線案Dを、整備路線案と考え、今後、現地調査等を行って細部を決める。 ただし、現道の東側部分を迂回する路線案Bについても、今後、現地調査を行う。」 との整備方向が決定された。
2004年6月12日。 当連盟4名,県・村4名にて,苗場山現地で,上記配慮事項を考慮しつつ,迂回路Dを現地踏査し,テープを設置した。
現在(6/16) 県において,迂回路Dの詳細設計を行っている。

3.今後の展望とまとめ
長野県自然保護連盟の要請により,高層湿原に直接木道を設置することはほぼ回避されそうであるが,具体的な木道設置のルートや施工については今後とも注意深く見守らねばならないだろう。湿原への木道設置を回避するという,当面の要請目標は達成されたと,評価できよう。
実際に,両者合同での現地踏査による迂回路Dは,ほぼ全線が笹原であり,貴重な湿原を避けて通過できるものとなった。 今後は,ササ払い等に現道より,維持管理の手間は必要となるが,自然保護のためには絶えざる監視と注意深い手当てが必要なのであり,今回のルートは,現時点では次善の策であったと考える。
苗場山における,今回の自然保護運動の経過が,他地域での湿原保護の参考になれば幸いである。



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