「協同の発見」  協同総合研究所  所報   第45号  1995年12月   所収

<研究会通信> 第22回「労働組合運動と『協同』」研究会  1995年11月17日  明治大学

 生協におけるパート労働の現状と課題

    −−コープかながわにおけるパート調査に基づいて−−

                          

 第22回研究会では、かながわ生協労働組合副委員長でありパート部会長でもある八谷真智子さんに生協のパート労働について報告していただきました。
 かながわ生協労組と生協しずおか労組は、ユーコープ(コープかながわとコープしずおかの事業連合)で働くパート労働者への詳細なアンケート及び聞き取り調査をおこない、その検討結果を『パートの明日を拓く』という調査報告・提言集にして今年(1995年)7月に発表しています。今回の報告はその内容をふまえ、コープかながわの事例から引き出した、生協運動のあり方とそこで働くということに関わる、事実と具体性に即した貴重な報告となりました。以下、一参加者として理解した報告の概要とその後の議論、私の感想を報告します。

 

基幹的労働として組み込まれているパート

 ユーコープの職員約11,000人の内、パートとアルバイトが人数比で82.8%を占め、労働時間の比率でみてもパートなどへの依存度は65%にのぼる。これは大手スーパーの水準を上回るほどである。
 さらに、パートの労働と正規職員の労働との区別は曖昧化してきており、発注業務、店舗での魚の加工といった技能職、本部での旅行事務、共済保険業務、薬剤師、保健婦に至るまで「パート労働」という形態で行われている。パートは、従前の「パート労働」の「誰でもできる置き換え可能な労働」という像から外れた、その人でなければできない仕事を担うようになってきている。
 特に店舗などの現場労働ではパートが不可欠の労働力となっている。人事政策の変遷の中で「一般パート」のほかに現在では「キャリアパート」と呼ばれる、いわば管理労働を担うパート、が導入されているのだが、50坪程度の小型店では、一人で3〜5店舗をみている正規職員の店長に代わって、店長代行であるストアチーフなど3人のキャリアパートが実際の店舗運営を行っており、発注業務からアルバイトの突然の休暇への対応まで彼女たちがすべて対応している。

パートタイマーのプロフィール

 一口に「パート」といっても様々な層の人が加わっており、「気楽な」「家計補助」「すぐやめる」といったステロタイプは全く当てはまらない。
 パートの7割がいわゆるM字型就労パターンだが、1年契約を更新し続け、平均勤続年数はパート全体で5.1年、キャリア職だけなら7.9年にもおよび、さらに伸長傾向にある。また長時間労働志向、キャリア職志向も増加している。主たる家計維持者も6%いる。
 重要なのはパート自身が地域の生協組合員でもあるということであり、パートの実に97.7%は自らが働いている生協の組合員なのである。そしてキャリア職のパートに生協の委員や班長などを経験した人が多く、彼女たちは地域でも活発な活動の担い手である。 

パート労働の問題点

 一般職パートの多くは3時間、キャリアパートは6時間の労働時間となっており、労働密度の高い短時間パートのつながりで仕事が回っている。 そのゆとりのなさから、本来必要な会議時間まで切り捨ててしまうことが、職場論議の不足、コミュニケーション不足を生み、さらに教育の不足などとも重なり、結局、生協の活力を削いでいるのではないか。
 発注するだけで、その後の売場の状況を気にしながらも3時間で仕事を切り上げ帰らねばならない欲求不満。「納得のいく仕事をしたい」という熱意と、逆に(残業代の)予算不足、さらに扶養控除の「103万円の壁」とあいまって、サービス労働を行なってしまう……。
 おそらく正規職員以上に「自分たちの店」という意識が強いストアチーフたちに至っては、77%がサービス労働をしている。
 こうしたパートの熱心な仕事ぶりは正規職員も認めているのだがそれに見合った待遇や教育などの体制ができていないのだ。
 生協運動や理念についての話し合いも職場ではあまり行えず、地域の生協組合員でありまた職員でもあるパートたちが不満を抱えたまま、「キャリアパートの(肉体的精神的)出血サービスが生協を支えている」、などと言われてしまうほど頑張っている状況は変えなければならない。   

改革への方向

 こうした生協での労働とパート制度の様々な問題のうち、労組は、特にパート労働の制度的側面については次のような方向性を提起している。
 @短時間政策が業務力量の低下やコミュニケーションの障害など非効率を招いているのではないかという観点から、それを見直すこと A勤続を積み重ねる意味を評価した制度への転換−−パートが、組合員によりよい暮らしのあり方を提案できる専門家たるべく、技能熟練を高める教育、専門知識や質の高い情報にアクセスできるようにすること B有期雇用の見直し C6時間で成り立つ管理業務・職務分担のあり方の検討 D正規職員へのハードルを低くすること−−全体のわずか2%しか女性正規職員がいない現状では、政策決定に関与できる女性幹部集団がもっともっと増える必要がある E主体的な生協労働の担い手としての正当な評価と位置づけの体制を作る−−当面、正規職員18歳高卒初任給の時間あたり賃金をめざす
      

報告後の討論と感想

 当日は以前研究会で報告していただいたコープかながわのワーコレ「キュービック」の村山さんにも参加していただいたため、報告後の討論では、組合員から見たパート職員の評価、現在の生協のあり方、生協職員の労働とワーコレの労働との競合といった問題についても率直に話し合われた。
 生協組合員からみた最近の店舗職員への不満(話もできない)、そしてパートたちからすればゆとりがないので組合員と話している時間もないという不満・・。たとえばそんなことをめぐって、ともに同じ生協の建物の中の、上(ワーコレが委託されている食堂)と、下(地下の組合事務所)にいながら、そして同じ生協組合員同士でありながら今迄十分な話し合いをする機会がなかった、と聞かされたのは全く意外だった。むしろ、自分たちの生協を、真に自分たちのものであるようにしたいという熱意において、ワーコレも労働組合も同じ力を共有しているのに、と強く感じたからだ。
 しかし、生協の過去10年ほどの方向性についての見方と評価はほぼ同じようだった。急なパートの戦力化を進めたがそれに対処できるマネジメント能力を育てていない、十分な業務経験を経ないまま若くして監督業務になってしまう正規職員はパートを指導できない、職員は事業に専念するべきだとして組合員活動に関わる職員を切ってしまい、効率・数値主義、スーパーマーケット化を進めたこの10年が、今日、職員と組合員の距離を作ってしまったのではないか等々・・。
 生協のあり方として、大スーパーとの競合生き残りのためという大義名分による拡大政策、あるいは「安い」というだけの方向でなく、あの人がいるから私はそこで買うという、人との関係、こうした製品だから買うという、物との関係、そういった「商品」の開発、そんな方向を目指せないか、という八谷さんたちの考えに私は共感する。
 自分たちの生協で組合員自らが働くという形態は、労働者協同組合の、自らが出資し自らが働くという形態とある意味で同型である。定義上自分たちは生協の主人公であると規定されているのだが、現実にはその生協の政策とその決定過程に対して異議を持つことがあり、そうした問題の具体的な解決を労組は模索しているように見える。
 こうしたことは労働者協同組合にとっても、多くの示唆を与えているのではないだろうか。
 
 
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