マーマレードの空

 ジョン・レノンはその顔写真などから、なんとなく気弱なインテリ、といった印象を受ける。ところがデビュー前はとんでもない不良少年で、レノンを含めたビートルズのメンバーは、荒れた港町リバプールをブイブイ言わせていたそうだ。
 このへんは、ナンバの繁華街でチンピラに喧嘩を売って回っていたタイガースと共通するところがある。ロックバンドは、喧嘩が強くないといけないのかもしれない。
 それにしてもタイガースとビートルズ、日英の両巨頭の格闘技戦が実現しなかったのは、かえすがえすも残念である。私としては、次鋒対決のシローとポールに注目したい。シローの「借金バスター」「自己破産クレイドル」が、ポールの五億ポンドの資産をどう崩すか。

 そのせいかどうか、ジョン・レノンと暴力団は、妙にウマの合うことが多いようだ。関西暴力団の生態を書いた小林信彦の「唐獅子株式会社」「唐獅子源氏物語」という小説には、ジョン・レノンが再三登場する。組長が服役者とジョンの健康を祈ったり、組長宅でテーマソングとして遺作「Starting over」が流されていたりするのだ。
 「Starting onver」という題名を、小説では「仕切り直し」と訳している。けだし名訳といえよう。歌詞もなかなか面白いので、今回はそれを引用することでお茶を濁すことにしよう。では、唐獅子レノンをお楽しみください。

仕切り直し(原題:Starting over)

 兄貴とわしとは一身同体や
 ミナミでつるんで暴れた仲や
 力あわせて組を大きくしてきたが
 ここらでわしらも組を割らんか
 わしが新しい代紋掲げるんじゃ

 兄貴の縄張(シマ)は全部わしのもんになったが
 わしを責めるのはお門違いやで
 時運のしからしむところや
 今 こうして 兄貴に会えたんじゃ
 どうや わしの組に入らんかい
 昔のよしみじゃ 悪いようにはせん

とっくりと思案せいや(原題:Imagine)

 神も仏もないもんじゃ
 拳銃(ハジキ)ひとつで首領(ドン)もイチコロ
 パクられたって死刑にゃならん
 無事に勤めりゃ幹部様
 わしらが天下を取るこの晴れの
 日が来る、と思わんかい

 縄張(シマ)なんぞもう関係ない
 吐いた唾は飲まんつもりや
 斬った張ったの騒ぎもないで
 麻薬(ヤク)も警察(サツ)もおらん世界や
 わしらの号令ひとつで極道が
 楽して暮らす世の中になるんじゃ

 組長(オヤジ)はわしを出過ぎやと言うが
 わしひとりの考えやないわい
 組の者みんな同じ腹やで
 腹括った方が身のためやで

事始め−ドンパチ前(原題:Happy Xmas - War is over)

 来年もなにとぞ 組長(オヤジ)
 よろしく頼んます 若頭(カシラ)

 今日は事始め
 また縁起物を売りさばき
 みかじめ料をせしめる季節
 組長(オヤジ)は何を考えとるやろ
 パクられた奴 死(い)んでもうた奴
 跡目を譲った舎弟 電話番のチンピラ

 今年は世話になったな
 来年もよろしゅう頼むで
 わしがもし殺(と)られることあれば
 女房と娘の世話見たってくれ

姐さんはお宝背負って冥土行き(原題:Lucy in the sky with diamonds)

 淀川に沈んだ舎弟のことが思い出されるわい
 紀州百万石の蜜柑で冥土まで黄色くけつかる
 舎弟が冥土から呼んでるわい
 姐さんも色目使っとる場合やないで
 デーハーな花でも供えたろかい
 ど頭かち割るほどでっかい花輪を
 姐さんも舎弟について行くんかい
 お天道様によろしゅう頼むわ
 姐さんはお宝背負って冥土行き
 姐さんはお宝背負って冥土行き
 姐さんはお宝背負って冥土行き……


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