唇よ、熱く君を語れ

 いやあ、終わりましたな日本サッカー。
 アルゼンチン、クロアチア、ジャマイカに全部1点差負けと、常に相手の70%の力でプレーする日本の気配り精神炸裂。見事なものでした。でもあれじゃ2002年に繋げようったって無理でしょうな。

 私、「善戦マン」と呼ばれていた頃のジャンボ鶴田を思い出しました。あのころの鶴田は、あいてがリック・フレアーだろうがブッチャーだろうがホースト・ホフマンだろうが、とにかくいい試合だけはしていましたからね。
 でも、日本サッカーをプロレスラーにたとえるなら、たぶんひと昔前の全日の前座レスラーでしょうな。基本はできてる、受け身は取れる、でもなんか試合見ていて面白くない、これという技がない。それに比べると、アルゼンチンはスタン・ハンセンクラス。クロアチアはジョニー・エース。ジャマイカはマウナケア・モスマン。ちょっと勝ち目がありませんな。

 はっきり言って、試合そのものよりもラモスの解説の方が面白かった。
「プロ意識が欠如している」「これで勝てたらおかしい」「サッカーを舐めているんじゃないか」いいなあ、あんなズバズバ言う解説。全部正しいし。確かに、城は精神分析が必要なんじゃないかというくらいゴールに蹴るのを嫌がっているし、中田はなにをしたらいいのか自分でもよくわかっていないみたいだし、中山はいるんだかいないんだかわからないくらい邪魔にならない選手だし、岡田監督の選手起用はジャイアンツの長嶋かタイガースの吉田かという領域に達しているし。馬鹿を馬鹿とはっきり言う解説者は、やっぱり必要です。

 むかしから毒舌系の解説は好きでした。もっぱら野球ですが。

 やはりルーツは野村、近藤、広岡の御三家ですね。野村はねちねちしたしゃべり方が気にくわなかったので、もっぱら週刊朝日のコラムですが。近藤、広岡は好きだったなあ。この二人、監督時代も言いたい放題だったから。
 分類すると、広岡が正しいと思うことを周囲を顧みず言い放つ、「冷徹信念派」、近藤は情熱の迸るままに問題発言が溢れでる「情熱失言派」、といったところでしょうか。近藤なんか、大洋の監督をしているとき、ヤクルトに負けて、「ヤクルトみたいなヘボチームに負けるうちはヘボヘボだ」などと言い放ってヤクルトナインを激高させ、以降ヤクルトに勝てなくなってしまったことがあったしなあ。あれは近鉄・加藤哲郎の「巨人打線はロッテ以下」と並んで、「野球選手、監督の方言・失言」という本が出たら巻頭カラーにして欲しい。

 御三家の衣鉢を継ぐのは江本でしょうか。選手時代から「ベンチがアホやから野球ができへん」で有名だった人ですが、ますます毒舌に磨きが掛かっています。長身、二枚目、眠ったような目で各球団監督をぼろくそに言うのが持ち味です。この人、参議院議員として収入が安定しているので、野球解説を降ろされても困ることはない。監督の座なんか狙っていない。それで、言いたい放題できるのですね。「恒産恒心派」とでも言うべきでしょうか。実家の魚屋とタレント収入が保証されていた故・ヒゲ辻もこの派でしょうか。ただ、江本は、現役時代のトラウマのなせる技か、もっぱら監督の悪口なのですね。もうちょっと選手の悪口も入れてくれるといいのですが。

 関根淳三さんも忘れてはいけません。好々爺然とした風体とソフトな語り口で、たまにぽろっと凄いことを言う。この人や故・青田昇などは、年齢的にもうなにも怖いものはない、という、「小言幸兵衛派」です。

 テレビ朝日の解説で圧倒的不評の大下剛史も好きなんです。確かに、ネガティブなことしか言わない。語り口がしつこい。嫌われるのももっともです。でも、あれがいいんだなあ。あの人の場合、山本浩二監督のコーチとして、あえて憎まれ役、苦言をいう役を引き受けていた。それが染みついてしまった、という感じです。「土方歳三派」とでも名付けますか。

 最後に、いまは阪神コーチになっていますが、福本豊の解説も絶品です。この人の名言。投手戦でスコアボードにずらりと0が並んだのを見て、「・・・タコヤキみたいですな」
 選手や監督の悪口もどんどん出るのですが、それも理性で考えた毒舌というよりは、雑然とした大脳がふと思いついたことを検閲能力のない理性が素通りさせてしまうという、「考慮欠如派」でありましょうか。


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