とむらいの歌

 2003年のペナントレース、パリーグの優勝は近鉄という予想がもっぱらであった。
 主砲・中村の残留。
 守護神・大塚の残留。
 パウエルと岩隈に、新加入のバーンも加えたハイレベルなエース争い。
 前川、山村、赤堀などかつてのエース級投手の復調。
 川口、北川、吉岡、鷹野ら、いてまえ打線を支えるバイプレイヤーの底上げ。
 ゴールデンルーキー坂口、筧の加入。
 小野、永池、島田、鈴木ら、強大な戦力の獲得。
 大石守備走塁コーチの就任による「走る野球」の浸透。
 もはや近鉄の前に敵なし、近鉄の後に5チームは確実と思われた。

 ところが蓋を開けてみれば、四番の中村がまさかの大不振、やがて戦線離脱。
 守護神・大塚は、なんだかんだとダダをこねて中日へ移籍。
 代わりにリリーフに据えたバーンは名前通り大炎上。
 岩隈は後半失速。パウエルは全面失速。
 かくしてダイエーにむざむざ栄冠を得させるのやむなきに至ったのである。

 そんな秋風漂うころから、聞こえてくるようになった歌がある。
 それはいつも五回の裏、近鉄の攻撃がまたも無得点に終わるころ、バックスクリーンから聞こえてくる。
 まるで、無為にシーズンを過ごした近鉄ナインを怨むが如く、呪うがごとく。

まっかと聞けばムラムラ まっかまっかでムラムララ
大阪育ちの血が騒ぐ
もうかりまっか

 歌は大西ユカリ&新世界というグループらしい。
 リズムアンドブルースのグループらしいが、残念ながらこの歌からは、R&Bのいぶきは感じられない。
 「おばはん」「でしゃばり」「ずぶとい」「コテコテ」「やかましい」「ケバケバしい」「ぶさいく」「漫才」「駄洒落」「カレー」といった、外から見た大阪人のネガティブイメージを凝縮したエッセンス満載である。

フルスイング! いてもたれ! それが猛牛
もう、ギューっといわしたる!

 こういう歌にあわせ、画面も炸裂する。
 時は2003年秋。セリーグ優勝におごる阪神は、不遜にもわがバファローズを倒して日本一の栄冠を得んものと、大阪に攻撃をしかけてくる。あやうし大阪。
 そのとき、大阪ドームの屋根から角が生え、その下から巨大な金髪のおばはんの顔が出現する。大魔神の伝説は本当だった。いやプルガサリか。
 甲子園方面から巨大なタコ焼きが転がってきて大阪を攻撃するが、それもあえなく、おばはんに一口で食われてしまう。
 いてまえギャルと称する、ちょっといかがなものかという扮装をした娘御は、タコ焼きの爪楊枝をバットにして、甲子園からの砲撃をつぎつぎと打ち返してゆく。
 大阪は護られた。おばはんは大阪ドームにもぐりこみ、いてまえギャルズは赤いバットに乗っていずこともなく去ってゆくのであった。

バファローズのBは、ビクトリーのBやでぇ!
(ビクトリーは、Vでんがな)

 いかにも大阪、というイメージを完璧にするために、ちゃんとボケとツッコミも収録してある。
 いままで、ボケとツッコミが入った応援歌などというものが、存在しただろうか。
 たとえば阪神の応援歌にツッコミが入ったら、いったいどうなるのだろうか。

六甲颪に 颯爽と(金本、足引きずっとんでぇ)
蒼天かける 日輪の(今日はナイターやがなー)
青春の覇気 麗しく(スタメンはジジイばっかやでー)
輝く我が名ぞ 阪神タイガース(たまには口語で歌ってぇーな)

 こんな歌をみんなで歌う気がするか。
 私はゴメンだ。
 しかし大阪ドームでは、きょうもこの歌が流れる。
 不甲斐なかった今年の近鉄を弔うがごとく。

レッドdeハッスル
ジャンジャンいったる 大阪の魂をこめて バファローズ!
オイコラ、そこの野球少年、まっかっかを英語で言うたらなんて言うか知ってるか?
まっかっかはなぁ、レッドッドじゃぁー!!

 全国発売間近、らしい。


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