アイススレッジホッケーの憂鬱

「よーし、練習終わりだ。明日に疲れを残すなよ」
「コーチ、もうすぐパラリンピックですね」
「緒戦の相手はノルウェーですね」
「相手は王者だ。われわれの力では、はっきりいって足元にも及ばないとは思うが、ぶつかっていこう」
「コーチ、やつら足がありません」
「わはははは、あげ足をとるなよ」
「手も足も出ないってやつか」
「手ぐらいは出そうぜ」
「いよいよ本番か。地に足がつかないよ」
「だからないんだってば」
「それよりコーチ、ちょっと相談が」
「なんだ」
「実は小宮のやつが、手術を受けるって言うんです」
「なんだって、本当か小宮」
「すみません、病院の先生の話だと、俺の足、手術すれば回復する可能性が高いって……」
「手術するつもりかよ!」
「お前が歩けるようになっちまったら、おれたちのチームはどうなるんだよ!」
「お前が健常者になっちゃったら、フォワードは誰がやるんだよ!」
「ごめん、でも……」
「チームのことも考えろよ! みんなお前を待ってるんだよ!」
「みんなでメダルを取ろうって誓ったじゃないか!」
「でも…… 俺、歩きたいんだよ」
「みんなそうなんだよ!」
「お前のわがままで、チームを壊すつもりかよ!」
「みんな、気持ちはわかるが、ここは小宮を笑って送り出してやれ」
「そうだ、そうだな」
「小宮、俺のぶんまで歩いてくれよな」
「がんばれよ小宮!」
「コーチ、みんな……うううううっ」
「馬鹿だなあ、泣く奴があるか」
「ガッツ小宮! ファイト小宮!」

「みんな、悲しい知らせがある。小宮の手術が失敗したそうだ」
「ということは、小宮が帰って来るんですね!」
「やったーっ!」
「それからいい知らせがある。アイスホッケーの石井選手」
「ああ、あの日本代表選手」
「彼が交通事故にあって、下半身不随になってしまったそうだ」
「ということは、もうすぐこのチームに来ますね」
「やったーっ! これで金メダルだぜ!」
「俺たちのチームは世界一!」
「はっはっは、現金な奴らだなあ」


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