キティちゃんで毎日グルメ

 サンリオのキティちゃんが、ふぁんし〜ぐっずのみならず、各地名産や土産物までにその暴虐な手を伸ばしているのは、以前にもふれたことがあるのでここでは詳説しません。ただあれから数年、キティちゃんはさらに勢力を増し、ハッピとふんどしの岸和田だんじりキティちゃん、浴衣とラケットの温泉卓球キティちゃん、浜松のうなぎキティちゃん、飛騨のさるぼぼキティちゃん、有明海のムツゴロウキティちゃん、牛久のカッパキティちゃん、青森のねぶたキティちゃん、博多のとんこつキティちゃん、下関のとらふぐキティちゃん、仙台の牛タンキティちゃん、千葉の狂牛キティちゃんなどなどの新メンバーをぞくぞく加入させているとだけ申しておきましょう。キティちゃんとブロッコリー、どちらが日本文化をより荒廃させたか、今となっては微妙なところだにょ。

 そしてここに、新たなる魔手が伸ばされているのです。ついにキティちゃんは、通信販売にまで手を伸ばしてきたのです。
 通信販売でサンリオグッズなど、とうの昔からやっている、とおっしゃる読者諸兄もおられましょう。そうです。ふぁんし〜ぐっずの通販は昔からやっております。キティちゃんクロノグラフ、キティちゃんカーテン、キティちゃん枕カバー、キティちゃんパジャマ、キティちゃん抱き枕、キティちゃん便座カバー、キティちゃん電子レンジ、キティちゃんこたつセット、キティちゃんコンドームケースなどなど。
 しかし今度は、ちょっと風向きが違うのです。グルメなのです。キティちゃんグルメです。いやべつに猫を食べるわけではありませんよ。
 前述したように、キティちゃん各地名産グルメは日本中の土産物屋で売られていました。キティちゃんふぁんし〜ぐっず通販も、行われておりました。そこでコロンブスの卵です。「グルメ」と「通販」をキティちゃんの旗のもと結集させ、一大勢力を創りあげたのです。ゲルショッカーのようなものです。サンリオが通信販売のベルーナと手を組んで、ここに新たなる殺戮兵器を投入してきたのです。ベルサンリオとでもいいましょうか。

 第一の兵器は「ハローキティかに鍋セット」です。
 土鍋、レンゲ、器のセットにカニ、すり身、生鮭、ダシ昆布、ポン酢、たれがついて9800円。「クリスマス特別価格」だそうです。むろん鍋、レンゲ、器にはすべてキティちゃんの顔が印刷されています。頭がカニになっています。プロレスラーの愚乱浪花のようでもあります。そんなキティちゃんが大ガニ子ガニと遊びたわむれております。白地にピンクの図柄がふぁんし〜です。ふぁんし〜な鍋と、そこからはみ出している生々しくもとげとげのカニの脚が、なんだかミスマッチです。猫の首が浮いていたら、もっとイヤですが。
 ミスマッチといえば、「クリスマス」「カニ鍋」「キティちゃん」、これほどのミスマッチは探してもそうそうは見つからないでしょう。

 第二の兵器は「ハローキティのグルメ寿司」です。
 なんとこちらは一年間、毎月配達されます。月々3980円です。それさえ払えば、毎月キティちゃんの描かれた絵皿と湯呑み、そしてお寿司が届けられます。毎月がキティちゃんです。しかもグルメです。寿司です。
 絵皿と湯呑みは「オリジナル四季の花デザイン美濃焼」だそうです。絵柄は、「はろうきてぃ」と墨痕あざやかな書の横に和服のキティちゃんと小動物たち、そして毎月その季節にあった花の背景となります。一月は「キティ&ビラカンサス」、二月は「キティ&梅」、四月は「キティ&さくら」といった具合に。さくらといっても広田さくらではありませんよ。それにしてもビラカンサスって何かしら。
 そして寿司。「業界初! スゴイ寿司!」と謳っているだけのことはあります。斬新な内容を誇っております。えび、イカ、まぐろの握りやうなぎのちらしなど、まともなものもあるのですが、多数派を占めるのはまともでない変わり寿司です。チキンライスハンバーグ巻き、エビピラフ軍艦巻き、ドライカレーの茶巾寿司、カレーの具だくさん軍艦巻き、メキシカンピラフのコーン軍艦巻き、かつロール巻き、フィッシュフライ巻き、ポークライスかのこ風、豚トロタレ焼き握り、塩カルビコチジャン寿司などなどの奇怪な面々です。斬新すぎます。「キティちゃんを愛する女性や子供のために開発され」たそうですが、女子供をナメ過ぎているのではないかと老婆心ながら思います。築地のお寿司屋さんが監修したそうですが、その店には行きたくないなあ。

 私は予言します。今後キティちゃんは、食品関係の分野にますます手を広げてくるのではないでしょうか。まず席巻されそうなのは宅配ピザです。ピザがみんなキティちゃん化するのではないでしょうか。楕円形の生地にチーズを載せ、ペパロニとピーマンとトマトで作ったキティちゃんの顔。そんなの四十づら下げて家に配達してもらうのは屈辱的だなあ。
 あるいは酒煙草。今はキャラクターを酒煙草の宣伝に使うのは規制されていますが、なにしろ断行の小泉内閣ですから(なにを断行したのか聞いていませんが)、きっとこの規制も緩和されましょう。たばこ税増税と同時に発売される「セブンスター・キティちゃんスーパーマイルド」もしくは「ショートホープキティちゃん」。ショートホープの箱に「これに収まるようなオトコの人って、キティいや〜ん」などと書かれていたら、これも屈辱的だなあ。

 もしくはご当地キティちゃんの幅をさらに広げ、世界にはばたくキティちゃん。ハワイのパイナップルキティちゃん、インドネシアのドリアンキティちゃんに始まり、タイのトムヤムキティちゃん、ベトナムの生春巻きキティちゃん、中国の上海ガニキティちゃん、アラスカのソフトシェルキティちゃん、韓国の犬鍋キティちゃん、アメリカのジャンクフードキティちゃん、ロンドンのくそまずキティちゃんまで。中にはモンゴルの火吹きキティちゃん、ウガンダの双頭キティちゃん、ザンジバルのさかなキティちゃん、ニューヨークの激突キティちゃん、アフガニスタンのオサマ・ビン・キティちゃんなどといった珍品も。

 しかしながら今、私は、この通販を注文しようとする衝動と必死に闘っています。
 一昨日、二日酔いとともに目覚めたとき、枕元にこの通販のチラシがおいてありました。添付のハガキにはきっちりと書き込みがされていました。「ハローキティのグルメ寿司」の欄に○がついていました。むろん、しらふではこんなもの投函しません。私にだって民間人としての矜持があります。
 しかし次に酔っぱらったとき、ついふらふらと外を徘徊し、ハガキを投函してしまうのではないか、それともフリーダイヤルに電話してしまうのではないか、そして翌月、送られてきたものの前で頭を抱えるのではないか、そんな気がしてならないのです。


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