『カードキャプター さくら』 #70 の感想


粗筋
「すべて終わりました」とエリオルは語った。事件の翌日、さくらは小狼や知世とともに 昨日の事件について彼に問い質しに彼の自宅を訪れる。 エリオルとのお茶会を通じて納得したこともいろいろとあった ── その間でさえ、結局は、忘れたふりはできなかった。昨日、小狼に告白されたこと。 自分は彼のことをどう思っているのだろう ──
概観
最終回。 大川七瀬もとい CLAMP も、ちゃんと物語を終われるんだなあ ... とか思ったり。 誰も死んでないじゃん。終わりよければすべてよしとも言うけど、『CC さくら』という物語を、 たしかに終わるだけの力のあった話でした。

なんといっても、知世、雪兎、ユエ、エリオル、偉、とバイプレイヤーそれぞれに きっちり見せ場があったというのが、いかにも最終回で、 しかもそれぞれのセリフが『ラスト』をメタファーにもつ言葉ばっかりだったりして、 あからさまに「終わり」を暗示してくんだもんな ...

知世
「このさき、何が起こるか分からないから、知世ちゃんは」
「御一緒しますわ」
例えて言えば、オセロでたった一手でほとんどすべてのコマが反転していく、 そういう印象のあった一言。 趣味のためには手段も目的も選ばない知世だけど、 趣味を (さくらの反論を封じる)手段として、ちゃんと相対化して扱えることを示した ...

ん、難しいな。 従来通りの彼女だったとしても、ここで言う言葉は同じになる、 でもその場合はさくらは止めるやね。ここは撮影が目的ではないから、さくらは止められなかった。 ... さくらの表情がこれまでと違っていた(苦笑ではなかった)から、分かる。

知世の立場が、「さくらを撮影することがわたしの趣味だから」 ついていく ... 知世が自分の趣味をこういう使い方をしたのは、たぶんはじめて? おもてむきの行動と、真の理由とがあったとして、 どちらかといえば「撮影」は「真の理由」に見せかけてきた。 .... さくらカード編に入ってやや暴走気味に至っていた知世が、 自分の趣味を客観的に扱う。.... 優先順位と目的を間違えなかった、 「真の理由」にみせかけることすら、しなかった。 最終話らしい、見せ場でした。

完成されたバイプレイヤーとして描かれてきた知世に、 まだ成長の余地があった ... 次の一歩を踏み出した、 まだまだ伸びるんだ ... ということとともに、 これまでの知世の発言、行動に対する裏打ちの意味が変わって来る。 つまり、 趣味を趣味として正しく扱えるのであるならば、 趣味に没頭して危険な領域に入り込んできた行動の意味が変わる。 どれほどビデオカメラを惜しんでいようと(それも本心だろうけども)、 それは代償いかんによってはいつでも捨てることができなければならない、という部分を忘れていなかった、 ... かもしれない(をい)。

端的に言えば、単なる危ない奴、から、物事分かった大人、くらいに解釈が変わる。 趣味以外の面では、小学生とは思えんレベルだが、趣味に関してだけはちと危うかったのが、 じつはそうでもなかった、彼女の他の面に相応するだけのものであったと。

にしても、さくらってば、第 1 話で 「ふえぇぇぇん〜 死んじゃうかと思ったよぅ〜」 などと泣いてたのが、危険度の事前評価で知世に「下がれ」と言うくらいにまでなりましたかい。

お茶会
「ほえええええええ〜」
これぞアリスのお茶会。好きだねぇ ... いや、それだけだけど ...
「クロウ=リードにも予測できなかったことってなんだ?」
「... それは内緒にしておきましょう」

血縁に魔力が残る、位は予測のうちだったとして、 確かにエリオルの目的からすると小狼は邪魔だな。けっこう後押ししてたようにも思うが、 これはクロウの遺言の範囲でなく、エリオルのほうの趣味なんだろうなあ、きっと。

エリオル
「たとえ前世の記憶を持っていたとしても、 僕はクロウリード自身ではありません。
クロウリードはもう二度とこの世には現われない。 だからこそ、彼はさくらさんにあなたたちを託した」
すまん。正しくこうくるとは実は思ってなかった。 エリオルの言動が過去のクロウのものに汚染されすぎているので、 こういう解釈を成り立たせるつもりでいるとは思ってなかった。 僕(エリオル)と私(クロウ)の一人称使い分けもあるようなないようなで、 ここでも微妙に混同が見られるし。

たしかに reincarnation 時の精神の汚染を扱う話は他にもいろいろある。 そしてたいがい、若いうちに過去の記憶が戻った場合、 本人にかなりの重圧が掛かることになっている ... が、それを

「それが生まれ変わりである私に残した、遺言ですから」
遺言として客観視できるつうのは、クロウの配慮なのかエリオルの力なのか。 いずれにせよ、この問題、エリオルの心のうちでは解決済みなのですね ...
エリオルが過去から連続したものとして扱っていないのは、 ユエやケルベロスに対して「久しい」「懐かしい」その他の言葉を 掛けていないことからもわかる。

さくらを遥かに上回る魔力、カードとの親和性、 彼がクロウリードの生まれ変わりだから、ではなく、彼自身の資質として 彼もカードの主たるだけの資格はあった。
環境と条件に恵まれていれば彼も主たりえた。.... クロウの予知では彼の転生が カードの主になることはないと分かっていたにせよ、そしてその記憶を受け継いでいたにせよ。

ユエの「なぜ新しい主など決めさせた」 に対しては、だから、エリオルが語った理由とともに、 彼自身が再び主になる機会がないことは分かっていた ... ということを含むだろう。 さくらが主になることを予知していたんだから、それの裏返しとして。 ただ、全てが、クロウの支配下にあったわけじゃない。不世出の魔術師であってさえ。

カード達が、エルオルの存在を知ったあとで、さくらへの態度をどう変えたかは 結局描写がなかった。さくらカード化されたカードはともかく、ライト/ダークの カードについては、かつて「ユエ次第だけど、応援しているわ」とさくらに 語ったことがあるんだから、それとの整合を考えても、一言欲しかった。 ... てのは前回書いたが、 その描写不足がここで響いてくる。

ケロもユエもカードの代表者ではあっても、代弁者たりえないのは、 わざわざミラーが挨拶に出て来たこと、ライト/ダークがユエと別の意志表明をしていること、 などで分かってんだし ...

要はユエの視点を支持するカードがどれだけ居たのか .... であって、ユエやエリオルが どう思うかは、あんまり関係ないように思う。

ユエ
「それでも、それでも待っていたかったんだ、クロウ ...」
すでに解決済みの態度を崩さないエリオルに対して、... 若いな > ユエ。
まあでもここはそれをみるとこでなく、
「あたらしい主が嫌いなわけじゃない」
こっちだろう。ここまできてなお「あたらしい主」と呼ぶ ... つまり、ユエにとってクロウはまだ(古い)主なわけだ。ケルベロスはもうすっかりさくらが主になっていて、 エリオルがクロウと分かった後も精神的に敵対する態度を変えていない。

現状は小狼でいえば初期の状態にあたる。 だから、ユエがちゃんとさくらを認める ── というあたりの話が出来ないことはないはずだ。
というわけで、『さくらII』を希望。

教室にて
「やっぱり、さくらちゃんちょっと元気ないね ... どうしたんだろう」
この話で、ひっかかった唯一のセリフ。

雪兎に振られたあとの一週間もかなり元気なかったはずで、それがどれくらい前の話になるのか、 ってことがちょっち問題になるけど、

「さくらちゃんまたちょっと元気ないね」
になるとこだろう、と瞬間思った。んだけども確かに推敲してるうちに落ちる部分かもしんない。
苺鈴
「いいんだ。俺の気持ちは伝えたから」
『よくないっ』

ほとんど一言しかでてこないが、その一言だけで、十分に元気一杯に苺鈴していた(ってどんなだ)。

『CC さくら』ではロクな役をわりふってもらえなかった苺鈴だけど、 小狼の内心の説明用に便利に小狼の悩みごとを一番に聞ける立場として、 どうかするとさくらより小狼に近しい位置にいるじゃん ... それではヤダってのはともかくとして、 「ぽややん」としたさくらでさえ間違えない「時」と「状況」の扱いを ころころと間違えるような単なる「子供」なのではどうにもならないだろう、とは思う。 苦労のレベルが違いすぎる。

雪兎
「でも、僕は感謝してるよ。
その人が僕の本当の姿を創ってくれたから、僕が生まれて、...
さくらちゃんや、桃矢に会えたんだから」
内容は内容として、それとは別に、 「『CC さくら』が生まれて、さくらちゃんや、桃矢に会えた ──」 という文脈がかぶってきてるんだろうな、やっぱり。 主格がすこしヘンだが、気にしないことにして。

ところで、このセリフだと雪兎の一番はさくらに見えるんだが、 それなら別に断らんでもよかったんでないかい。

さくらの内省
「私も小狼くんのこと好きだよ。でもそれって ──」
さくらが内省に沈んだことはこれまでない。故に、考えるだけ無駄でしょう :-)

モデルの立て方としては、対象(小狼)に死んでいただいたところを想像するのが基本。 で、実際に小狼帰国というかたちで思考を強制されるわけだけど、 ... なんかこー、問題の扱い方が素直だねぇ。

知世がなんか細工するのかと思ったんだけど、というか、 ここで実際に細工に動くのはそれはそれで知世のポリシーに反しそうだが、 適切な状況を整えればなんとでもなるだろう ... 月峰の寒祭の時のように。尺が足んないか?

知世からの電話
公衆電話からさくら宅への電話、というのはつまり、 自分の電話はどうした、というのは演奏直後ってことで裏に置いて来てたとして、 さくらへの直通電話もとらない可能性があるほど悩みに沈んでいる、という状況判断ですか。 携帯もってなかったんで直通の番号覚えてなかったという可能性もないでもないけど。
「そんなの、そんなのって、私 ...」
魔力の無駄使いだ ... と思っては、いけないんだろう、すいません。
空港にて
「おまえ、どうして ...」
魔力があるなら気配で気付く描写が欲しい、とか。 なんつーか「一般的」な描写だなあ。「どーして」とかボケてんじゃない ...
「小狼様。これを」
クマのぬいぐるみを小狼が置いてったことで、 心残りがあると読んだんですねぇ。 小狼がさくらに連絡を入れてなかったことを知ってるか否か、だけど。

にしても、すぐにとりだせるとこに持ってるつうのが機会を逃さず、ってのんで凄いぞ。

返事として
「そのくまさん、私にくれる?」
ある意味、『CC さくら』って終わりやすい(ラストの造りやすい)話なのね、 と思った部分。 『CC さくら』を通して さくらの言動には厳しい制約がかせられていた。 「他人になにかを要求してはならない」とか、 「内省に落ち込んではならない」、「他人の提案を拒否してはならない」なんてのもそうだ。 知世を動かす時でさえ、理由節を前置きしている。 小狼に対してはこの条件を外してもいい ── と明示するだけで、 「小狼は特別だ」という描写が成る。 知世に科した制限もそうだったけど、ひたすら耐えておくとラスト映えるなあ。

くまさんを渡すことのメタファーのほうは、 かなり中途半端(さくらから小狼に渡すくまさんがない)なので、 このあたりは劇場版に繋がるんだろう。

この話、この一言
「クロウはもういない。けれど、思い出話なら、出来るよ。
私でよければ、何時でも話そう。君の大好きなクロウ=リードのことを」
うん、面倒見が良かった。ユエ相手ならこう言わないといけないし、 これならユエがクロウになつくのがよくわかる。 と同時に、さくらとの力の差 ... ということも。さくらは泣くことしか出来なかったわけだから。

ってのはつまり、ここで語っているのは私(クロウ)だから ...

ところで、このセリフ、 当然「『CC さくら』はもう終わった。けれど思い出話なら出来るよ ──」 が裏にかぶってくるんだろう。

「最終回」を暗示するセリフの多かった中にあって、 このセリフ聞いた時が、「ああ、終わるんだな ...」と腑に落ちた瞬間だった。


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