東金ブルース・ライブ/2001/7
◆私のギター暦はけっこう長く、中学の頃からですから、かれこれ35年にもなります。これまではオーソドックスに普通の?ロックやフォークを弾いて来ました。でも、ギターを真面目に演奏するとなると、膨大な練習時間が必要です。あれは練習だけがうまくなるコツで、他に方法がない楽器なのです。怠け者の私は、その点ギター演奏には向いていない人間だったように思います。<自虐的かな?(笑)
でも、生来的にというのか、黒人音楽が好きで、ブルースやソウルをよく聞いていました。ロックという音楽にしても、背後に黒人ブルースが存在するのだ、という自覚はあったのです。でも、自分でそれを演奏したことはありません。私が音楽に目覚めた1960年代後半は、ブルースがすでに伝説的な時代背景に隠れてしまって、よく分からない部分が多かったのだと思います。
◆それが、自分でブルースを演奏してみようと思ったのは97年のことでした。柏の「新星堂」のディスプレイに流れていたビデオを見ていると、打田十紀夫さんというまだ若いギタリストがボトルネック奏法を実演していました。見ていると意外と簡単そうでした。私はさっそくそのビデオと金属製のボトルネックを買い、楽譜とにらめっこしながら練習を始めました。
翌、98年の夏に柏のライブスポットで「柏市民ネット」の音楽会があり、そこで練習した二曲を演奏しました。その時は「ギターがうまいんですね」というリアクションがあって、ちょっと恥ずかしかったのです。弾き方が違うだけで、うまくなったわけではない、と自覚していたからです。
そして、その後はあまり発展なく、去年(2000年)の秋に藤野のステージで同じ二曲を演奏した程度でした。それがこの春、まったく意図せずに自作パソコンをグレードアップしまして、その「サウンド機能」が使えるようになった事が転機になりました。
この「パソコンのサウンド機能」と去年買ったCD−Rを使えばオリジナルCDが作れるようになったのです。それはつまり、自分が歌っているCDが出来るわけです。しかしそのためには、少なくとも10曲は演奏しなければ格好がつきません。オリジナルCDのために、再び練習につぐ練習の日々になったのでした。その曲目は以下の通りです。知っている曲と簡単な曲と、好きな曲のごった混ぜです。
1. Rumbring On My Mind (R.Johnson)
2. Down South Blues (M.Waters)
3. Crossroad Blues (R.Johnson)
4. いやんなった(憂歌団)
5. Kind Hearted Woman (R.Johnson)
6. Ain't Nobody's Business (PEG&C)
7. Sweet Home Chicago (M.Johnson)
8. 悪い星の下に(B.T & MG'S)訳詞:NAOKI
9. Love In Vain (R.Johnson)
10. Norwegian Wood (J.Lennon)
11. Early Morning Blues (M.Waters)
◆CDは4月末には一旦出来上がり、そのほやほやの二枚を「ふみの会」(私が所属する文学サークル)の例会で兄と藤川氏に贈呈しました。そこから話は意外な展開を見せ、翌月の例会で藤川氏から「ライブをやらないかという話が入っているよ」と言われたのです。藤川氏の友人に私のCDを聞かせたら「面白いから、自分がよく知っているライブのお店に出演させたい」と連絡を頼まれたそうでした。なんだか狐につままれたような話で、私も半信半疑というところでした。
5月中には音沙汰なく、6月になって依頼人のSさんから電話がありました。何度か電話で打ち合わせして、東金ライブの日程は7月22日に決まりました。
◆さてそうなると、ライブに向けて練習しなければなりません。50歳目前の脳味噌ではもはや、ややこしい英語の歌詞、しかも新曲は覚えられません。若い頃に覚えた歌はなんとか歌えても、今更英語の新曲はなあ……と冷や汗たらたらでした。それでもなんとか誤魔化せる程度には覚えました。
ギターの方も暑い盛りになって開け放しにしてある家の現状では音が出せません。まずエアコンを使えるようにする所から始めます。楽譜の整理、兄に貰ったギターマイクの調整もあります。さらに、私のギターは四半世紀前に買った安物で、あんまり人前に出せる代物ではありません。そこで、ライブ用に新しいギターを購入したいと思いました。兄は自分のギルドを使っても良いと言ってくれましたが、あれは兄の宝物であり、スライダーをバシバシぶっつけて弾く演奏には向きません。どんな傷がつくか分からないからです。それでギルドはちょっと残念ながら辞退しました。
◆6月3日、柏へギターを買いに行きました。目標は「小柄でハイコードが弾けるようにえぐれがあって、綺麗なギター」です。ご予算は三万円以内。しかし新星堂楽器店に行くとなかなか条件にあったのがありません。5万円の値札がついているアリアの青いギターがちょっといいかな、と思った程度です。しかし予算オーバーです。店長に話してみると、週末にバーゲンがあるとのこと。青いギターも半額になるとのことでした。
やっぱり、三万のギターと五万のギターでは気分が違います。(音的にはさほどの違いはないはずだけど・・・たぶん)これは土曜日に店頭に並ぶしかありません。ということで帰ってきました。
6月7日、ギターショップのバーゲンの日、9時半に車で家を出ます。けっこう混んでいたのでちょっと焦りましたが、55分には柏駅に着きました。車をロータリーに停め、開店3分前のカルチェ5の前に来ます。すると、ギターキッズが20人くらい並んでいました。(中にはスケボーしょったよくわからないのもいた)開店と同時に駆け込みます。私は二番手でした。二階の楽器店の特売コーナーは階段のすぐ近くにあります。先頭を走っていた長い金髪の男は、エクスプローラータイプのエレキギターをグワシと掴み、レジに運びました。
私も負けずに、お目当てのアリアの青いエレアコ(マイク付きフォークギター)を掴んで店員に渡しました。それから、ガラス製のボトルネックとサム(親指)ピックを付けて購入し、そのまま車に帰りました。5万円のギターが19800円だったのですから、これはまったくお買い得でしょう。
ドキドキしながら、うちに帰って弾いてみましたら、小さいギターなりの音でした。ちょっと低音がビビルのが気になります。その代わり、アンプに繋いで音を出すとなかなかいい音で、各音域を内臓のイコライザーで調節できるのでした。何はともあれ今時のギターが手に入ったのですから、これでなんとかライブの格好だけはつきます。
◆それからまた毎日、締め切ってクーラーをかけてギターの練習です。曲目はCDにした11曲に「ローリン&タンブリン」(リズミック・ブルースの名曲)「カム・トゥゲザー」(ビートルズ)の二曲を加えたものです。「カム・トゥゲザー」(おととい来い)の歌詞がジョン・レノンの「アフォリズム」なので、覚えるのがとっても難しいのです。意味があるようでなく、面白いんですが覚えられません。最後の秘策で各番ごとにナンセンスなイラストを描いて覚えました。
女房も私のブルース「初ライブ」という事で力が入っていました。前日の「柏まつり」で焼き鳥を売っている最中に高島屋に私を連れて行って、明日用のシャツを見せます。麻混のアフリカ調の青いシャツで、青いギターにコーディネートしています。定価2万2千円……(の6割引き)です。買ってくれるんならいいよ、とOKしました。しかし、定価だったらギターよりも高かったわけで、ちょっと笑えます。本番を明日に控えて、私は柏を早めに引き上げました。右手が腱鞘炎気味なのが心配です。喉も扁桃腺が腫れています。
◆7月22日日曜日、ライブの当日になりました。この日も朝から猛暑でした。私は午後2時くらいには出発するつもりでしたが、女房が「暑いのいやだ」というので延期し、多少風もぬるんだ4時に家を出ました。手賀大橋を渡り、16号線を穴川まで下ります。それほど混んではいませんが、いつものレベルで1時間半かかりました。京葉道路・千葉東金道路に入ろうとしましたが入り口が分からずうろうろしてしまい、少し遅れます。京葉道路は混雑していましたが、東金道路はがらがらで快適なドライブです。一度休憩し、東金インターで降りた所で午後6時になりました。
そこからSさんの書いた地図を頼りに極楽寺の「ポラーノ広場」へ向かいますが、地図が信用出来ません。一度通り過ぎてUターンし、ようやくブドウ畑に囲まれたポラーノ広場へ到着しました。「手作り・メキシコ売店」風の平家です。
中に入ると沢山のパンが並べられていて、その他にもいろんな食品を売っています。大きさは20畳くらいでしょうか。初対面ながら写真を見て知っていたSさんに挨拶し、おかみさんに紹介されました。マスターが畑から帰ってきて、ビールとパンをすすめます。空腹だったので遠慮なく飲み食いしました。このマスターが店を設計し、近在の音楽好きを集めてライブをやり、自ら音響係もやっているようです。
◆6時半ごろになるとパンが片付けられ、音楽会会場がこしらえられます。かなりアバウトに机・椅子をレイアウトし、小ぶりのPAを設営します。あとから演奏するTFV(東総フォーク村)のメンバーがラインを延ばしたり、マイクスタンドを立てたりして設営を手伝います。逆リハでTFVの二人から音出しをしました。(*逆リハ……先に演奏する人が後からリハーサルすること。するとそのまま本番に入れる)三々五々とお客が集まります。満杯で20人、と聞いていたのですが、それ以上の人が入ったようです。
7時40分、演奏スタート。歌いなれた二曲から始まり、しゃべりを入れて、順調に進みます。途中の何曲かでマスターのお嬢さんにタンバリンを振ってもらう事にしていたのが、なかなか合わずうまくいきません。一曲でやめてしまいました。そのかわりというか、後半に大学生のモミーさんがブルースハープで参加してくれて、どえらく盛り上がりました。特に「クロスロード」が大迫力だったので、アンコールでもう一度やりました。始まりが遅かったので自信のない二曲をとばすことが出来てちょっとホッとしました。腱鞘炎も喉の痛みも、本番になるとすっかり忘れて全力でギターをかき鳴らし、喉がつぶれるほどシャウトしてしまいました。
◆演奏後、何人かから「よかったです」「ブルースは長くやってらっしゃるんですか?」と声をかけられました。「ええ、まあ」とニコニコして誤魔化すしかありません。Sさんに売ってもらった本(「あゆみの明日物語」)とCDのセットは9個売れました。また、ギャラの代わり?のおみやげは、スイカ・パン(5種類)・ジャム・卵(3パック)・梨ブランデーなど大量でした。(ギャラは別便で送られてきました)
その後、女房は車で我孫子まで送って貰い、私は残りました。ステージではTFVの演奏やマスターの娘さん姉妹のデュエットなどあり、えんえんとジャムセッションが続きました。私は日本酒をぐいぐい飲み、フラフラになったので、途中でSさんに私の車を運転してもらって自宅へ連れて行かれ、そこでも少し飲んで寝ました。初対面の人なのに、泊めてもらうというのもめったにないシチュエーションです。Sさん宅には犬が二匹いてさかんに吠えます。一匹はすぐ手懐けましたが、もう一匹は翌朝まで吠えていました。
◆その夜はぐっすり眠り、朝6時に目がさめて、一瞬自分がどこにいるのか分かりませんでした。7時半に紅しゃけの朝食をご馳走になりました。食事の後、横になっているとSさんの夫の方が顔を見せました。私とほぼ同年代とお見受けしましたが、髪の毛はすっかりなくなっています。Sさんは私を「まるで若者でしょ?」と紹介していました。髪の毛に関してはそう言えたかもしれません。
8時には帰路につきます。大通りまでSさんの軽と一緒に走り、途中で別れました。東金道路も16号も順調に流れて、10時には帰宅しました。それから、暑い中で後片付けをしてシャワーを浴び、またしばらく寝てしまいました。
なかなか楽しい一夜でした。今度はもうちょっと大勢の客の前でやりたいな。
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