ちび猫物語

(わしらは命の恩人さ)

 タヌキの出るわが庭は、野良猫黒パンの縄張りです。私たちが今の家に引っ越してきた当初は五〜六匹の猫が出入りしていたのですが、全て黒パンに駆逐されてしまいました。そこに果敢に入ってくるのがちび猫で、小柄なメスの虎猫です。

 ちび猫はもと飼い猫だったようで、一昨年の秋ごろ最初に現われた時には首輪をしていました。赤いプラスチックの首輪で、それをたすきにつけていました。小さい時の首輪だったらしく、もはや大きくなりかけの猫の脇腹に食い込んで皮膚と肉を破りピンクの肉がはみ出ていました。

「このままでは死んでしまう」

 私は考えて、なんとかして首輪を取ろうとしますが、ちび猫は警戒して近づいてくれません。少しづつ餌で懐柔し、家の中に入るようになったので、つかまえて首輪を取ろうとしますが、押さえつけた時点で怒り狂って逃げてしまいます。私も妻も何度もひっかかれました。(人の心猫しらず)

こんな感じで前足をひきずっていた

 最後は、ニッパーを出して、餌を食べている首もとに差し込んで一発で切ることに決め、実行してうまくいきました。全部は切れなかったのですが、半分以上の切れ目が入り、後で見るとそれが広がって、やがて切れて外れたらしく、数日後に首輪は消えていました。ちび猫は、首輪を切った瞬間は驚いて逃げましたが、死の首かせから逃がしてくれた恩人だとわかるのか、黒パンが恐くてもせっせと通ってくるようになったのです。

 しかし小さなちび猫は巨大な黒パンににらまれると、たちまち小便をちびります。サッシの向こうに現われた黒パンがガラス越しに威嚇すると、ちび猫の尻から黄色い水が溢れ出します。ちび猫の膀胱が満タンでない時はまだいいのですが、一度は台所から風呂場まで小便びたしにした事がありました。

 九月後半、二度も連続で黒パンの待ち伏せにあい、重傷を負わされたらしく、まったく姿を見せなくなりました。

「どうしたのかなあ」

と思っていましたが、秋も深まる頃に一月ぶりに顔を出しました。背中に大きな傷がありました。びくびくして、塀のそばから離れませんでしたが、無事なのを知ってホッとしたのです。

 

 最近の出来事では、映画を観て帰ってきた夜、ちび猫が中にいました。夕方入って、それから姿が見えなくなったので外に出たと思い込んでいたのです。

 リビングをみると、ウンコの山。しかもあちこちに垂れ流してあり、コタツの中にも一山ありました。外に出たと思った夕方、実はコタツに潜り込んでいたのです。

 6時間近く閉じ込められたので、恐くなって垂れ流したようでした。おかげで楽しい映画の日の夜が悲惨な事になりました。きれいにするのに1時間近くかかりました。

 ただ、猫の糞尿はすごく臭いものなのに、ほとんど匂いはなく、その点は助かりました。

 ちび猫は餌を食べに来るだけではなく、尻を撫でてやらないと帰りません。ちびなりに発情しているようですが、オス猫と交尾するという選択は彼女の適用範囲にないようです。人間の手で撫でてもらって、頭を床にこすりつけ、挙げ句の果てにひっくりかえってしまうちび猫を見ていると、このままりっぱな猫として成長出来るのかと少し不安になります。

・・・?

 

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