ガラス探訪長浜

 1999年1月、九州へ帰省の帰路、長浜市日本最大というガラス展示場に立ち寄りました。以下はその記録です。

広い窓の北陸線から息吹山を見る

 佐賀から特急と新幹線で京都まで5時間、久々に尻の痛い思いをしました。さらに名古屋まで各駅停車の「ひかり」に乗り換えて米原に行きます。そこから長浜へは北陸線で10分ほど。

明るい窓からおだやかな北陸道の景色が眺められます。伊吹山には雪がドレッシングのようにかかっています。

 ご存知の方はご存知でしょうが、長浜は信長が安土に築城した時、同じポリシーで秀吉が築いた「長浜城」のあった土地です。

 長浜駅前のブロンズ像(秀吉と石田三成)

 駅に降り立った時は、もう夕闇が迫っていました。私たちは長浜市内をぶらぶらしながら夕食を取る店を探しました。でも、ひどい事になりました。「とらや」という飯屋ですごいものを見たのです。その夜、私が自分の掲示板に書き込もうとしたのが下の文章です。

 「長浜に来ています。晩飯を食いに市内を歩きました。でも、どこもせこくて、入る気がしません。店構えも食品見本も小さくて、悲しいのです。いっそのこと、と思い駅前通の「とらや」という食堂に入りました。・・・・悲惨でした

 ミニ丼のような小さな丼、冷たくなった他人丼と伸び切ってへなへなになった中華丼の麺・・・一皿300円もするほうれん草やシラス・・・正気じゃない・・・

 老夫婦は愛想がよく、私たちを上客だと思ったのか食後のコーヒーまで出してくれる歓迎ぶりでした。店の雰囲気はすごくよかったので怒ってはいません。でも悲しいですね。長浜の食い物屋は、滅びかけの有袋類がやっている模擬店です。(笑)本格的な外食産業が入り込んだらたちまち絶滅するでしょう。」

 この店の看板には、「小さな出費、大きく感謝」と書いてありました。誰が誰に感謝するのでしょうか?・・・私はしません。

 いや、歴史的な体験でした。長浜駅前通り徒歩3分「とらや食堂」おそるべし。

「とらや」

 飯屋を探している間に、なんと街を一周してしまいました。一辺が5百メートルにも満たない小さな街です。途中で「オルゴール館」という所に入りました。清里のそれとは違い、小さいかわいいお土産用のオルゴールの展示販売場です。木造なのにフロアが広く、美しい空間でした。ここは是非入って見て欲しい所です。 

オルゴール館の内部

 予約した「国民宿舎・豊公荘」に着きました。街で一番高い「長浜城」を含む公園の中にあり、琵琶湖湖畔が目の前です。二階の一室に荷物を置きました。それから酒とつまみを買いにコンビニに行きました。(もちろん「とらや」の飯では空腹だったから)

 部屋は和室八畳ですが、京間なので狭い感じがします。部屋にはバス・トイレがなく、玄関も狭く、窓側にリビングもなく居心地はよくありません。ただ窓の外がすぐ琵琶湖です。沖の照明が窓に広がります。それと、予定外でしたがここは温泉なのでした。私たちはさっそくそれぞれ湯船に飛び込み、濁り酒「白川郷」とビールを飲んで酔っ払って寝ました。

 

 「豊公」とは豊臣秀吉のことです。だから、ここのカギは秀吉の馬印・ヒョウタンです。「白川郷」は甘くて私は飲めませんでした。(左)

 朝、窓から見える琵琶湖はガスで煙っています。(右)

 

 朝、起き出して朝食をとり、着替えて外に出ます。湖畔に歩み寄ると、たくさんの水鳥が泳いでいます。ガン・カモの類です。近くの大木にはミミズクらしい大きな猛禽がとまっていました。

 向こう岸は白く霞んで見えません。

長浜の町並み

 戦災に遭わなかった街らしく、古い、奇麗な建物が並んでいます。どれも小作りできゃしゃで、黒い壁がシックです。表通りよりも、むしろ裏通りに入るとよけいにその事が印象的です。さて、黒壁ガラススクエアに入ります。

黒壁1号館

 黒壁1号館は昔の銀行の建物を利用した、現代ガラス工芸品の展示場です。それほど大きな建物ではなく、階段は狭く急で、危険なほどです。それでも「黒壁ガラススクエア」の中心だけに、堂々としています。なお、「黒壁ガラススクエア」というのは統一的な一つの建物ではなく、雑多な目的のガラス展示・販売場の総称です。

 

1号館の角にある看板(左)正面左側の展示(右)

 

ガラスと関係ない、カーニバルの面(左)各種ブローチ(右)

 展示内容は芸術品ではなく、商業的・装飾的なものなので、目的が違うとがっかりします。でも、こういうガラスもあるのだ、というスタンスで見れば結構おもしろいでしょう。

 

一つだけ鑑賞に耐えるボヘミアングラスが・・・

黒壁10号館

 10号館は「ガラス鑑賞館」です。ガレやドーム兄弟など、19世紀ガラスのファンなら、ここでそれを見る事が出来ます。しかし、そのコレクションの数ははなはだ貧困というしかありません。期待しているとがっかりします。入場料(600円)をどう考えるか、難しい所です。

 私自身は、建物の鑑賞料を含め、妥当な値段かな、と思いました。

10号館入口

 

 中に入ると、昔の商人屋敷の雰囲気はたっぷりです。暗く、古く重い感じですが、少し狭い気がします。

 肝心のコレクションは、ガレ工房の小品が数点、ティファニーが数点という所で、それが目的だと少々ものたりません。

 照明も、ランプなのに内側ではなく外側から照らしていたりで、おいおい、とつっこみたくなりました。

 

 

 

 しかし、後半の現代作家の作品は面白いものがありました。ウルスラ・フート、ヴィトヴェなどです。日本作家も頑張っています。ガラスの可能性を感じるのはむしろこちらの方かもしれません。そう感じられたというだけでも、ここに来た甲斐はあったというものです。

ガラス玉館(13号館)

 ガラスの歴史に欠かせないのがトンボ玉です。ヨーロッパが世界を制覇したのは、通貨としてのガラスを確保していた事が大きいと思われます。ベネチア、オランダの両国はその点で大きな役割を果たしました。そのトンボ玉の工房に行ってみました。

トンボ玉制作中

 

 現代のトンボ玉も面白いものがいっぱいありました。繊細で、高度な技術を要求されるのがわかります。かみさんは土産に買いたがったのですが、紐の部分が安っぽいのでやめにしたようです。どうしても玉の部分に手がかかるので紐まで神経が回らないようです。

 むしろ、この工房以外で紐と玉のバランスの取れたものが見つかりました。難しい所です。

 

2号館スタジオ・クロカベ

 ここは1号館の裏にあり、ガラス窓ごしに手吹きガラスの制作工程を見学できます。

 おりしも女性アーチストが制作の途中です。猫壷からタネを取り出し、吹き棒にからめて吹いたり、水にぬらした新聞紙で形を整えたり、鉄鋏で削ったりしています。

 

 暑そうで、しかも腕も手もむき出しなので、火傷しないかと心配になります。私のようなソコツ者はあっという間に火傷の連続だと思うと、こういう仕事は向いていないかもしれません。

(余談ですが、この女性、横顔は若くてチャーミングでしたよ。)

2階ではサンドブラストの講習

 上に登ると、スタジオの主らしい人の作品展示と、サンドブラストの講習をやっていました。サンドブラストは、細かい砂を吹き付けてガラスの表面に絵や模様を書く作業です。予約すると体験できるようです。展示作品は、私の趣味ではありませんが、なかなかのレヴェルだと思いました。

展示作品に見入る

他の店たち

 黒壁ガラススクエアには、このほか20数個所のガラス展示・販売場があります。それぞれに特徴があります。決して芸術的とはいえませんが、値段も安めですし、購入を目的に訪れても悪くないと思いました。(アクセスの不便さとか、飯屋の貧困さとか、壁は厚いですが)

 こういうガラス器たちに囲まれていれば、ぎすぎすした世の中でも少しは心豊かに過ごせるかもしれません。少なくとも、そういう気持ちになれる所でした。

 

さまざまな展示

 今回の落ちですが、古い街らしいすごい物を見つけました。

 マツダ・キャロル360です。

 スバル360テントウムシと並び、日本モータリジェーション歴史上の記念碑的な車です。ピカピカで、実動している事が一目で分かります。う〜ん、長浜、あなどれない街です。

 

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