「そのひとがうたうとき」を上手く歌うコツは?

 9月にある文化祭の合唱コンクールで私のクラスは『そのひとがうたうとき』を歌う事になりました。私は指揮者をやることになりました。『そのひとがうたうとき』は、パートのからみが多く歌うのも指揮をするのも難しいのですが、上手く歌えるコツがあったら、教えてください。

 saki 静岡県 他大勢

解答 

 「そのひとがうたうとき」は'99年に教育芸術社の委嘱で作曲、「ニューコーラスフレンズ」2訂版に掲載されました。オリジナルは混三版です。ちなみに翌年の'00年、合唱集団「遊声」から演奏会アンコール用に委嘱を受けて混声四部版を作成しました。こちらもピースの形で教育芸術社から出版されています。今回は混三版をもとに説明しますが、混四版も要点は同じです。

 さて上手く歌う一つ目のコツは、メロディばかりに気をとられずハーモニーを豊かに鳴らすことです。やたら大きい声を出してもハーモニーは鳴りません。正しい音程と4声の音量バランスが決め手になるので、時々ピアノ伴奏なしでアカペラで歌ってみるといいでしょう。アルトは音域が低いせいもあって、全体に控え目になりやすいですが、ハーモニーを美しく鳴らすには内声がしっかり支えることが重要です。豊かな低音を出してみてください。二つ目のコツはのめり込みすぎて間のびしないこと・・、でしょうか。詩はある種宗教的な雰囲気、広がりがあり、メロディラインもハーモニーもきれいですから、最初からのめり込んで歌いたくなるかもしれませんが、こういう大きくうねる曲は、エネルギー配分を考えないと、必ず途中で息切れしてしまいます。竜頭蛇尾では聴き手にアピールできませんね。だから面倒でも最初にどういう構成になっているかチェックしましょう。大ざっぱに分類すると

 前奏(4小節)+A+間奏(2小節)+A'+BC+A''D(コーダ)

といった感じになります。本当に大ざっぱ。全体に反復の多い曲なので、ゆったり響かせる場所、前乗りにぐんぐん進む場所などメリハリをつけることが大切です。

前奏は音量が大きいわけではありませんが、低音を効かせた豊かな響きがほしい。
5〜24小節)をさらに細かく見ると・・。
 
5〜8小節は主題です。メロディは4小節をワンフレーズに感じて大きく歌って下さい。
「うずくまる」9〜12小節でいったんpになり、「くちはてた」13〜16小節+「あらそいあう」17〜24小節と徐々にホップ・ステップ・ジャンプの要領で盛り上がって第一部分の山を作ります。強弱がp,mp,fと上がっているのがおわかりでしょう。ただし、ここで音量を出しきると、あとが平板になってしまいます。あくまでAの山ということで。

A'(27〜46小節)はほとんどAの反復ですから、構成はAを参考にしてください。
 A'の特徴としては、メロディラインがいろいろなパートに現れることです。「そのひとがうたうとき」は男声、「その」はアルト、「こえはとおくからくる、おおむかしのうみのうねりのふかみから」はソプラノ、「ふりつもる あしたのゆきのしずけさから」が男声、「わすれられたいのりのおもいつぶやきから〜」がソプラノです。音量バランス
を考えないと、いつでもソプラノが大きくなりがちなので、自分のパートがメロディを担当する場所はチェックしておいて、そこははっきりイニシアチブをとって歌いましょう。それからメロディの受け渡しが自然に聞こえるように練習してみてください。

BC(46〜66小節)は、主題との対比部分です。
 B
(46〜54小節)は今までと違う新しいモチーフが出てきますので、A'から続けて無意識に歌ってはいけません。「そののどは」の46小節2拍目からはっきり気持ちを切り替えて、新しく歌い出すことが必要です。歌い方も、AA'とは音色や雰囲気を変える工夫をしてみましょう。そういう工夫をするのが演奏のおもしろさであり醍醐味なのです。
 C
(55〜66小節)はある種主題展開部のようでもあります。パートが別々に動く時は、それぞれの動きの対比がはっきり出るよう、音量は均等に。

A''D(67小節〜最後)は4小節の主題の再現ののちすぐコーダに突入します。
 A''
(67〜70小節)は歌詞をのぞけばほとんど主題の忠実な再現ですが、再現部に帰ってきたと安心してしまってはいけません。主題が戻ったことを聴き手にはっきり印象付けながらも、すぐに体制を整えて曲の最大の山に向けて盛り上がる準備が必要です。

 Dはいよいよ最後の盛り上がりですが、71〜74小節にかけて「さかいをこえ」「さばくをこえ」「かたくなな」と、やはりホップ・ステップ・ジャンプの要領で三段階に盛り上がっていきます。こういう時はホップの地点にいるうちから、ジャンプの山の頂上を感じてフレーズを大きくキープし、畳みかけるように盛り上がると効果的です。ただしテンポが走らないように注意して。74小節でめでたく曲の頂点に到達しますが、大切なのはその後80小節まで7小節間その山をキープすることです。体力入ります。ほとんどの合唱団は、山にたどり着いた途端テンションが落ちてしまいますが、それでは聴き手に山をアピールできません。ホップ・ステップ・ジャンプで盛り上げてさらに7小節間ffをキープできるよう、エネルギー配分考えつつ歌って下さい。

 最後、meno mossoの3小節は曲を締めくくる重要な部分です。男声のメロディは音量が高めですが、声を張り上げた感じにならないように。高音が出にくい人は、ファルセット気味でいいので、やわらかくレガートに歌って下さい。最後のコードびしっと決めて。

2004.10.12