質問36 好きな曲はうっとり酔いしれて歌っていい?

 うちの団員は「鴎」が好きで取り組み方が違います。酔いしれてます(笑)。このように、「鴎」をうっとりと歌っていいものなのでしょうか?特に‘彼ら自身が彼らの故郷 彼ら自身が彼らの墳墓’の部分は考えてしまいます。高らかに歌っちゃっていいのかな?

ペンギン

解答 

 なかなかユニーク、かつ重要なポイントをついたご質問です。あっさり答えから言うと、歌い手だけで楽しむとき(打ち上げや催しの締めなどでテンションを上げる場合)はうっとり酔いしれても、しみじみ泣き歌っても、拳にぎってオールffの絶叫でも構いません。作曲家としては、難しいコンクールで歌ってくれるものうれしいですが、誰にも強制されることなく、自然発生的にみんなが自分の曲を陶酔して歌ってくれるほど嬉しいことはありません。どうぞ気持ちよく歌って下さい。

 が・・、少しでも聴衆が存在する場合は全く違うお答えになります。自分で酔って歌っていい演奏になることはまずありません。どういうシンプルな構成でもきっちり分析してフレーズを作り、それに言葉を効果的に乗せ、2番、3番と音色を変えたり声部のバランスを変えたりしてメリハリをつけ、山までの盛り上げ方を考えてじりじりとテンションを高めていき、聴衆の気持ちを巻き込んで頂点を迎えた後も、最後の音符の切り方、切った後の静寂まで緊張感を持続しないといい演奏になりません。はは、こんなことをいうと、だれも「鴎」を歌ってくれなくなりそうですが。

 でも聴衆の前では自分が気持ち良くでなく、聴き手が気持ち良くなる演奏をしなくてはいけません。これはプロもアマチュアも同じです。それには曲や演奏に対していつでも客観的な目を持つことが不可欠です。客観的な目を持つ一番簡単な方法としては、自分たちの演奏をテープに入れて聞き返すことです。陶酔して歌った演奏を後日部室で冷静に聴くと、かなり粗が見えてくるはずです。気持ちを込めたはずが、聴くと粘っているだけだったり、高らかに歌いすぎて演奏に変化がなく単調になっていたり、絶叫しすぎて歌詞が全然聞こえなかったり。だから日頃愛唱している曲ほど、演奏会に乗せるときは客観的に音楽を組み立て直し、演奏を練り直す作業が大切なのです。熱い心と客観的な目、両方あってはじめていい演奏になります。

2003.6.8