質問33 「春に」徹底解剖2 (楽曲分析・奏法)

 今までQ&Aにいただいた質問の中で一番多かったのが、「春に」をうまく演奏するコツは?「春に」はどういう気持ちで書いたか?というもの。掲示板、メールを合わせると100件近くいただいていると思う。ありがたいことだ。前回「質問32」の解答として、「春に」作曲の背景とテキストについて書いたので、今回はいよいよアナリーゼと詳細な奏法について。伴奏法についての質問も多くいただくので、合唱だけでなくピアノ奏法についてもふれてみたい。

解答 

楽曲分析

 それほど複雑な構成ではないので皆さん楽譜をじっくり見ればお分かりになると思うが
念のためざっと曲の組み立てをご説明しておくと。
前奏(1〜5小節)+A(6〜25小節)+B(26〜46小節)+A'(47〜73小節)というわかりやすい複合3部形式である。 

 Aを更に分析すると、ab-ab'という2部形式になっている。ab(6〜14小節)という大楽節はa(6〜9小節)b(10〜14小節)という2つの小楽節から成り、小楽節aはさらに2小節ずつ2つの動機に分けることができる。もっともこれらを意識しながら作曲しているわけではなく、流れるままに作曲したものをあとで分析しているだけだが。こういう分析は面倒だし、演奏には熱いハートさえあればいいと思われるかもしれないが、少なくとも指揮者にとっては不可欠の作業である。合唱曲にはテキストがあるので楽曲分析の変わりに歌詞にべったり頼りがちだが、それをやると焦点のぶれた退屈な演奏になりがち。どんな熱い演奏にも客観的な視点が必要なのである。

 Bは a-bb'-cdというやや変則的な3部形式と見ることができる。この部分は複合3部形式における中間部なので、それまでのAの楽想との対比を鮮明に出すため、主調の変ロ長調からわざと遠い変ト長調に転調している。またAでは比較的旋律が規則正しく反復するのに対してBでは自由にのびのびと楽想が移り変わっていく。
 3部形式はふつう大楽節(通常8小節)3つから成るが、a(26〜29小節)は4小節だけですぐ次の楽節bb'(30〜37
小節)に移り、さらにこの曲の一番大きな山場であるcd(38〜46小節)へなだれ込んでいく。

 A'はもちろんAの再現部だが、かなり自由な展開をみせる。Aではabが繰り返す2部形式だったのが、A'では新たにcd(53〜60小節)が加わって中間部を作り、ab-c-a'b'という変則3部形式を形作っている(bは2小節しかない)。変則2部形式と見ることもできるが、ここにわりと大きい山場ができているので、3部形式の中間部と見るほうが自然だろう。

 曲は生き物なので、形式どおりに書かれていることはほとんどないが、動機(2小節単位)小楽節(4小節単位)大楽節(8小節単位・あくまで目処だが)を念頭において、ざっと分析するくせをつけることをお勧めする。

演奏法

 全体の特徴
1.すべてのフレーズが弱拍から始まる
・・というのがこの曲の大きな特徴である。この曲を指揮なさる皆さんは弱起の振り方だけは抑えておかれると良いだろう。いやというほど何度も出てくるので。某大物指揮者がおっしゃるには、合唱が4拍目裏から入る場合、4拍目頭でちょっと指揮棒を突き出して空をつつくようにするだけで充分入りのタイミングが合唱団に伝わるとのこと。何度練習しても弱拍の入りがずれる場合は、指揮者の振りが大きすぎるのが原因である場合が多いようだ。
2.音型の反復・・Aの冒頭、16分音符の弱起で始まる特徴的な音型が2度繰り返されるし(その後何度も現れるたび必ず2回繰り返される)、Bの中間部bからb'にかけては同じ音型が3回繰り返される。そういう場合全部を同じようにべたに演奏すると、せっかくの曲の構成が全く生きなくなってしまう。同じ音型が何度か続く場合は、どこに重心がくるかを必ず考えて。この曲の場合2回繰り返すときは後の方、3回繰り返すときはホップ・ステップ・ジャンプの要領で3番目に重心がくる。むやみにクレッシェンドするのでなく音楽を重心に向かって進めるという気持ちが大切だ。

 前奏
 
前奏は伴奏者に任せればいいとよく言われるが、それは本番の話で、練習の段階では合唱団と同様ピアニストにも的確な指示を与える必要がある(プロの場合はお任せでOK)。もちろん全員の前で注意するのでなく、事前に打ち合わせと称して伴奏者だけに伝えればいいことだが。アウフタクトから入る場合はどういうタイミングで入るか、どういう音色で弾くか、どこまでをワン・フレーズにとるか、節をどう歌わせるか、ペダルはどこでふむか、等々。あまり細かいと嫌われるが、要所で的確な具体的なアドバイスを与えてあげてほしい。特に前奏は目立つし、合唱の歌い出しにかなりの影響を与えるので。ピアノが弾けない人は歌って見せてあげて下さい。

 この曲のようにさりげない前奏というのは案外難しい。mpなのでことさら音量を抑える必要はないが、がさつにならないよう、柔らかい音色で弾くこと。歌おうとしてねばったり力んだりせず、楽な気持ちで弾くと却っていい演奏になる。これから始まる音楽を暗示するような高音のメロディは、なるべく他の動きとは別に、透明な音でくっきり聞こえてくるのが望ましい。スラーはかかっているが、弾くときは右手のメロディのみ少しはじくようにすると、高音がきれいに通る。もちろんこれは裏技で、もろにスタッカートに聞こえてはまずいが。4小節1〜2拍目、右手の下降する和音にスタッカートとスラーがついているが、4つの和音ををひとまとまりに感じつつ、やはりはじくように弾くと軽やかな動きとなる。音型は下降するが、気持ちは和音ごとに一つずつ階段を上がっていく感じ。3拍目でリラックスして。むむ、前奏だけで紙面が尽きてしまった。本編は次回に。

2003.3.17