質問20 増版ごとに楽譜のチェックをするのですか?

 無伴奏混声合唱のための「ELEGIA」の練習を始めて気付いたことがあります。僕の使っている楽譜は「一刷」なのですが、団員が使っている「二刷」と違うところがあるのです。7ページ46小節テノールの「やさしい」の「い」の音が 一刷では「H」なのに、二刷では「G」になっているというもの。女声の旋律と照らし合わせると、二刷のほうが正解かな?という気がしますが、これは一刷の誤植が二刷で訂正された と見てよいのでしょうか? また、同じような違いがあった場合、二刷のほうが正解と見て 差し支えないでしょうか?先生は増版ごとに楽譜のチェックをなさるのですか?今年購入した楽譜などは18刷でも誤植がそのままでした。

神奈川県 寺澤朋篤

解答
 「ELEGIA」7ページ46小節テノール「やさしい」の「い」の音は、おっしゃる通り「G」が正解で、一刷の誤植を訂正したものです。本来なら初版で完璧な楽譜に仕上げるべきなのでしょうが、そこはやはり人間、何度見直してもかならずいくつかミスを見落としてしまいます。それで、二版三版と、気づいた段階でミスを訂正していくわけです。

 楽譜出版までの行程を見てみると、まず、作曲者が最終チェックを終えた楽譜を出版社に送り、それを浄書屋さんがコンピュータに打ち込んで、美しい出版浄書用楽譜を作成します。ごくたまに手書き浄書(4分音符や8分音符の形をしたハンコをひとつひとつ押して楽譜を作る!10年くらい前まではすべてこの手法だった)も存在しますが、これは手間が掛かって高価なので、今や豪華本くらいでしかお目にかかれません。パソコンを使うようになったとはいえ、作曲者自身がパソコンに打ち込んだデータをそのまま利用して浄書する場合以外は、結局浄書屋さんが複雑な楽譜を見ながら一から打ち込む訳ですから、この段階でわりとミスが多く出るのが普通です。そのため出来上がった浄書譜には作曲者と編集者の両者が目を通し、第一回の校正を丹念に行って赤を入れます。それにそって浄書の直しがされると、さらに二回目の校正を行い、その直しが終わって初めて印刷に回ることになります。

 それだけしても出版後かならずミスが発覚しますから、私の場合、二刷の前にもかなり丁寧な校正を行ってなるべく正確を期すように努めています。読者や演奏者からクレームやご指摘をいただいている場合はそれもチェックします。とはいえ「校正」って集中力を必要とするしんどい仕事なので、二刷前の時期とても忙しかったり、在庫が底をついていてすぐ再版しなくてはならない時には、悪魔のささやきで校正せぬままになってしまう場合もごくたまにあります。まあ通常は初刷時に2度、二刷前に一度きちんと校正し、三刷以降はもうチェックしないのが普通です。ですから四刷を過ぎても直っていない誤植は、永久にそのままである確率が高いといえるでしょう。指揮したり伴奏をしていておかしい箇所を発見なさったら、是非出版社にお知らせいただけるとうれしいです。私の曲でしたら、掲示板に書いていただければ、次の版から対応いたしますので

 誤植の直しとは別に、再版のたびに音やテンポの細かい改訂を行う方も時々おられますね。私の場合だと、基本的には一度出版した楽譜にあれこれ細かい直しは入れない主義ですが、そのわりに大きい改訂は時々やります。改訂新版といって、全面的に書き直して浄書も全部やり直してもらう方法です。たとえば「邪宗門秘曲」は再演時に大幅改訂したのに、出版になったときは更に大幅改訂し、7年後には改訂新版ということで全面改訂、浄書を全部やり直してもらっというのに、最新のオケ版楽譜でまたまた改訂してしまいました。出版社が最もいやがるパターンで、反省はしているのですが、楽譜をみるたび直しを入れたくなってしまう曲ってあるんですね。

2001.8.14