質問16 「星の話し」演奏上の注意点は?(その1)

 「星の話し」は'01年度全日本合唱コンクールの課題曲のひとつです。課題曲へのアプローチということで、ハーモニー(全日本合唱連盟会報)春号に掲載した文章を、合唱連盟のご厚意により、ここに抜粋して掲載できることになりました。全文をお読みになりたい方、また他の課題曲の解説もお読みになりたい方は、全日本合唱連盟合唱センター、もしくはヤマハ銀座店、カワイミュージックショップ青山などでご購入下さいね。なおハーモニー誌上では、副題が「難曲、フレージングを大切に」となっていますが、本当は「シンプルな難曲」です。要するにシンプルという言葉が落ちてしまったわけですが、曲を見ていただければおわかりのように、一言で難曲、と言い切るほど大規模でも難解でもありません。譜面がとてもシンプルで短いからといって甘く見ると、意外と難しい面もあるから気をつけてね、といった程度の意味合いです。怖がらずに皆さん歌って下さい。

2001.4.19

「星の話し」
シンプルな難曲・フレージングを大切に

 最近では、シンプルな無伴奏作品をたくさん書いている私ですが、無伴奏に初めてチャレンジしたのは91年、東北大学合唱団の委嘱で書いた『春の予感』でした。初演の東北大は、宗教曲で鍛えた柔らかい美声と正確なピッチで、心に響くとてもいい初演をしてくれましたが、その後東京では、なかなかこれはという名演奏にめぐりあっていません。譜づらは一見何ということのないシンプルで親しみやすい作品集ですが、とにかく頻繁に転調するので、耳のよい合唱団でないと歌いこなせないせいかもしれません。
 でも、最近は10年前とは比較にならないほど無伴奏を歌う合唱団が増えて、みんな耳もよくなってきたことだし、そろそろいい演奏が聴けるのでは、と思っていた矢先、今年度の課題曲に「星の話し」が選ばれたのでした。

 「星の話し」は『春の予感』の第4曲ですが、全8曲中最もシンプルで転調の少ない作品なので、ポイントさえおさえていただければ、それほど耳に自信のない合唱団でも楽しんで歌っていただけると思います。「静謐の美」を表現していただきたい曲です。中略。

 さて具体的に曲を見ていきましょう。

 構成はいたってシンプルで、A(1〜7)ーA'(8〜14)ーB(15〜22)ーA''+コーダ(23〜終わり)の4部分からなっています。 出だし、音域が低くppで始まりますが、こういうときはppを意識しすぎると、発声や音楽がのっけから萎縮してしまいますので、柔らかい美しい響きで歌い出すことを、まず心掛けてください。「あおい」から「みつめている」まで7小節はワン・フレーズです。途中「なかで」「ひそめて」などで音型は下降し、休符も入りますが、そのときにいちいち意識を落とさないで、気持ちをキープすることが大切です。

 8〜14小節は、前半アルトがメロディを受け持ち、その上にソプラノがのってきます。このとき気を付けていただきたいのは音量バランスです。アルトの低音は音がマスクされやすいですから、pと書いてあってもmpくらいのつもりで音を出してください。ソプラノはアルトのメロディーを聴きながら、やわらかく寄り添う感じで。アルトの「草も」から、ソプラノの「木も」へのメロディー・ラインの受け渡しが自然につながるように工夫してみてください。

 AとA'はほとんど同じ動きですが、A'のほうが少し山が大きくなります。特に14小節の冒頭Fの音は、メロディーの新しい動きですので効果的に。14小節後半にディミニエンドがありますが、気持ちは一段落するのでなく、却って、15小節後半「町には」に向かって前乗りになると、音楽に動きが出ます。19小節の2度目の「町には」で、さらに一段上がる感じで。テンポも自然にすこしアップしてかまいません。こういうメロディー中心の曲はずっと同じテンポで演奏しては却って不自然ですから。

 24小節で最初にもどるわけですが、和声進行が3小節ほど再現されたあとすぐにコーダ部分に入ります。この最後の部分、28小節から最後の33小節までは、突如凝った転調が連続して出てきて息が抜けなくなります。ピッチの練習はこの7小節を重点的に行うことをお勧めします。ぴしっと決まればとても洒落たエンディングとなりますので。

「HARMONY」(ハーモニー)春号(全日本合唱連盟 2001.4.10発行)より抜粋