質問5 『ソルシコス的夜』の「ソルシコス」の意味は?

 無伴奏混声合唱のための『EREGIA』の最終曲『ソルシコス的夜』の「ソルシコス」とはどのような意味なのでしょうか。いろいろ調べたのですがいまだに理解していません。 よろしければ言葉の意味とともに先生の「ELEGIA」に対する解釈などをお聞かせ頂けたら幸いです。

山口県 市川勉

解答
 ソルシコス(Zorcicos)というのは、スペインのバスコ地方の一種の舞踊の名前ですが、それが具体的にどういう踊りなのか、見たことはありません。作曲時に調べた折にはたしか、「詩人は、某外国人舞踏家(名前を失念)の踊る『ソルシコス的夜』というタイトルの舞台を見て、感銘を受けた」という解説があったと記憶しています。念のため今回 都立中央図書館で、百科事典を軒並み引いてみましたが、ソルシコスについて一行も載っていませんでした。どちらにしても、このガラス細工のごとき繊細な詩と、スペインの舞踊というのはあまり結びつきませんね。

 結びつかないと言えば、第一曲「ELEGIA」に「ゲンスボロオのミニアチュル」というのが出てきますが、イギリス・ロココの画家ゲンスボロオ(Gainsborough,Thomas  1727〜1788)の、ちょっと俗っぽい細密画も、詩の内容とは、いささかそぐわない感じがします。詩人は、意味や内容より、その響きで言葉を選んでいるのではないか、とすら思えてきます。現に、詩人自身が、「ソルシコス的夜」の収録されている詩集『真昼のレモン』の別の詩について、次のように語っています。

 「非常にリアルな世界があるような錯覚をおこさせる自然な調子が与えられているが、それは結局リズムだけであって、そのイメヂはすべてうち砕かれた破片となってリズミカルな流れのなかに無秩序に漂っているにすぎないのである。それが鋭い悲劇的なニュアンスとなって瞬間的に作用する。私はこの作品に於て、リリカルな作用だけを純粋にとりあげて、それだけをこの作品に残すようにしたのである。」

 なんだか雰囲気が武満徹さんに似てるような気がしますね。非常に感覚的な文章とか、アバンギャルトとして名高いのにその本質はリリシズムであるとか、若者に人気があるとか・・。あ、これ誉めてるんですからね、武満ファンの皆さんおこらないで。

 『EREGIA』については、回を改めて、もう一度アプローチしてみたいと思います。

2000.6.24