Q. 作曲独習のための本と勉強法 自分は今独学で作曲を勉強したいと思っています。勉強しやすいよい書籍があるならば教えて下さい。よろしくお願いします。 健/16才 A. 最初にお断りしておくと、私は独習派ではない上、作曲の弟子もほとんど取ったことがないので、健さんやよーすけさんのご要望に添うような独習本や独習法を挙げる自信は全くありません。ですが今までの経験から「これは勉強になった」とか「こうすれば効率がいい」というアイデアはあるので、ご質問からは少々離れるかもしれませんが、私のお薦め作曲勉強法と、ご参考までに私が勉強に使った本をお教えしたいと思います。 まず一番最初に取り組むものに和声法がありますが、これはどんなに良い本でも読むだけではまず理解できません。多くの実例(作品)を分析し、実際に多くの課題に取り組んで作曲を重ねて初めて体得できるものです。独習するにしても、和声だけは専門家に指導してもらうことをお勧めします。レッスンは月一度でも二ヶ月に一度でもいいのです。先生から教わるのでなく、自分で本を読み、なるべく多くの和声課題を作って持参し、先生に客観的にチェックしてもらうのです。学校の音楽の先生に相談してみては。 和声課題をこつこつ仕上げて先生にたまに見てもらうという基礎勉強をある程度したら、もしくは同時並行で、実践の勉強をしましょう。好きな曲の楽譜(スコア)をまず用意。実はもっとも素晴らしいテキストはこれです。ショップにいけばピアノ曲もオケや吹奏楽スコアも名曲が選り取りみどりです。研究する助けとして、楽式論、楽曲解説本などを用意しましょう。理論書はわかりにくくて当たり前、1〜2冊読むだけで音楽をマスターできるほど世の中楽ではありません。あくまで作品研究や作曲する上の手引きとして使いましょう。 まず手当たり次第いろんな曲を聴きまくって好きな作曲家や曲を絞り込む。最初に選ぶ曲はなるべくオーソドックスな古典作品をお勧めします。古典は書法がシンプルな上、解説本がたくさん出ているので勉強しやすいです。少し慣れてきたらロマン派、近・現代物まで手を広げてもいいでしょう。とにかく好きな曲を選ぶことです。ただ無調性の現代音楽は一人一人の作曲家が響き・構成・オーケストレーションなど独自のアイデアで作っていくため普遍性を見い出しにくく、基礎力のないうちに飛び込むのは危険です。 さて好きな曲を選んだら楽譜をよく読み何度も聴いたり演奏したりして、音楽を自分の体に入れましょう。ピアノ曲なら勉強は楽ですが、オケのスコアだったら少々時間がかかってもスコア・リーディングして音を掴んだあと、スコア丸ごと写譜したり、ピアノ用コンデンス・スコアに要約してみたりするのはとても勉強になります。ちんぷんかんぷんならスコア・リーディング入門の本で勉強しましょう。 次にその楽曲のコード進行や構成の分析をじっくりしてみる。分析したくても作曲形式を知らない場合はまず楽式論を読みましょう。自分なりに分析したら楽曲解説書などで専門家の分析との違いをチェックするのもいいでしょう。ベートーベンの「熱情」ソナタのような有名な曲でも分析本が三冊あったら三冊とも分析の仕方が異なっていたりしますから、完璧な唯一の答えを求める必要はありません。要は曲の骨格を掴めばいいのです。 吹奏楽の場合は古典がないので、マーチ等できるだけシンプルなものから分析すると構成やオーケストレーションをつかみやすいと思います。ただし最初に勉強する音楽は深く身についてしまうので、なるべくいろいろ聴いて、中で一番深みのある名曲を研究対象に選んでください。できれば吹奏楽だけでなく管弦楽曲も同じくらい聴いたほうが、作曲する時の引き出しが多くなります。 このようにして何曲か分析したら、あとは実践あるのみ。見よう見まねで曲を書いてみましょう。ピアノ曲なら楽譜を作るのも打ち込みも楽です。PCのプレイバック機能があるなら、ある程度曲ができたところで聞き返してみましょう。作曲後しばらく時間をおいて聞き返すと、クライマックスが短いとかエンディングがくどいとか、かなり客観的に自作を分析できます。最初のうちは短いメロディの曲でもいいですが、ソナタ形式や変奏曲形式など複雑な形式の曲もどんどん書いて構成力を養いましょう。 ただ独学の場合、自作を音にする機会が少ないのでいくら本を読んでも作曲法が机上の空論になりやすく、コンクールを受けてもなかなか勝算はありません。意外と有効な手段に、合唱団や吹奏楽団に所属しメンバーとしてコツコツ活動して信用を得てから、団長さんに自分のスコアを見せ、泣きついて演奏してもらうというのがあります。それがダメでも指揮者に見せてアドバイスをもらったり、小さいアレンジなどをやらせてもらえるかもしれません。1〜2度あしらわれても諦めないことです。 最近はパソコンでデモ・テープを作ることが可能ですが、ネックは音量バランスから自分で設定しなくてはならない点です。一度も自分の吹奏楽や合唱曲を音にしたことがない人が打ち込みで曲を作ると、音量バランスがわからず、Demoで聴くと名曲でも、実際演奏すると似ても似つかない曲になったりします。また打ち込みだと技術的に不可能な超絶技巧を平気で書いてしまう恐れもありますから、個々の楽器の特質を知る必要があります。楽器事典はたくさん出ていますが、楽器もどんどん進化するので、なるべく新しい版のものを購入しましょう。本でわからないことは演奏者の友人をたくさん作って教えてもらいましょう。 人前で大きい恥をかくことは進歩の早道ですから失敗を恐れず、どんどん作曲して演奏されるチャンスを作って下さい。最後は「やる気」が決め手。ご健闘お祈りします。 参考資料 木下学習使用本 ・「楽典 理論と実習」 石桁真礼生 他 著 音楽之友社 |