03年11月29・30日
モーツアルト劇場20周年記念オペラ
「不思議の国のアリス」

東京芸術劇場中ホール

写真館入り口

  オペラ公演の2日間、お天気は今ひとつだったものの、2日とも満員のお客さんで盛況のうちに終えることができた。お出掛けいただいた皆様どうもありがとうございました。ゴディバのチョコレートやパイやお酒をたくさんいただきました。特に2日目はブラボーも飛び華やかな幕切れになってやれやれ。これで安心して年が越せるというものです。

 年齢的に今の時期オペラをひとつ書けたのはとても良かったと思う(委嘱くださったモーツアルト劇場会長の高橋英郎先生に大感謝)。オペラというのはとにかく作曲以外の要素が多くて、正直言って最初かなり面食う。まず題材と台本が後のほとんどを決定してしまうといってもいいほどウエイトが大きく、それに音楽をつけたあと今度は演出と衣装、舞台装置などがどんどん加わってそのたびに印象が大きく変わっていく。今まで、長いオーケストラ作品を書くのも全て一人で決定してきたので、大勢で作り上げるのに大きな戸惑いがあったのは事実だが、だからこそ総合芸術だし、その点こそがオペラのエキサイティングで深い所なのだと実感した。特に今回はスタッフ、キャストがみんな優秀で経験豊富な方たちだったので、作曲がぎりぎりになって、あとの作業に時間的制約と迷惑をかけてしまったにもかかわらず、皆さんすばらしい仕事をしてくださったのは本当にありがたかった。

 特に作曲者が直接お世話になった方としては、綿密にスコアに目を通して作曲者の意図を汲み取って下さり、丁寧で的確な音楽作りをして下さった指揮者大井剛史さん、お忙しいなか、台本関連で貴重なアドバイスをたくさん下さり、スピード感のある魅力的な演出をしてくださった鵜山仁さんには大感謝。

 オペラを最初から委嘱で書かせてもらえるというのは滅多にない幸運なことで大変感謝しているのだが、それと同時に大変な仕事でもあった。創作オペラというのは、すでにある名作を演奏するのと比べて想像できないほど多くの費用と時間がかかるのだが、それは一度経験して初めてわかることで、今回はプロデュースのモーツアルト劇場にとっても初の創作オペラ制作だったため予想外のことが多くて大変だったらしい。

 一般の人に予想のつかない出費といえば、何といっても「パート譜代」。古典作品ならレンタル料を払うだけだが、新作で、特にオペラ(今回のような短めの作品でも90分ある)でちゃんとしたパート譜を作成しようとすると、びっくりするほど高額の費用がかかる。 今回は、私がFinaleで清書したフル・スコアを、一場出来上がるごとに圧縮Dataにしてメールに添付して送り、そのDataを利用してパート譜を作成してもらう方法をとったので、普通のパート譜製作より時間も短く、費用の面でも随分リーズナブルな価格できれいに仕上げてもらうことができたのだが、それでもプロデュースサイドにとっては大変な額だと思う。
 余談だが今回お願いした東京ハッスルコピー、とても仕事のデキる会社で、特に取締役Sさんの誠実で素早い対応には本当に助けられました。

 作曲家にとって予想外だったのは、とにかく時間が足りなかったこと。最初いろいろと難問が山積みだったため、実際作曲に集中できるようになったのは3月末になってから。始めた段階ですでに本番まで8ヶ月しかない状態だったので、ずっと疾走し続けない限り間に合わない苛酷なスケジュールで、体力的に本当に疲れました。来年も同じことをやったら死んでしまう・・。特に私は時間をかけてじっくり取り組むタイプなので、次に機会があったら、90分物ならぜひ一年半はかけたい!

 総監督の高橋英郎先生のキャスティングのセンスはいつも素晴らしくて感心するのだが今回も魅力的でぴったりの配役をしてくださり、作曲家としては本当に嬉しかった。特にアリスのお二人、一日目の鵜木絵里さんと赤星啓子さんは絵本から抜け出たように可愛くイメージぴったりで、演技、歌ともすばらしく全体を引き締めてくださった。他のキャストもみなさん実力派の声楽家ぞろい、変わったキャラクターを楽しんで演じて下さったのに心から感謝している。2日通して合唱を担当してくださったのは若手有望歌手12人、少人数にもかかわらず迫力のある歌に踊りに大活躍してくださった。きっと将来すばらしい声楽家になられるに違いない。楽譜が遅れて直接の被害を被るのが歌い手の方たちだが、特に被害を受けたのが最終場に登場するアリス(前述)とお姉さん役の柏原菜穂さんと平井香織さん。ヴォーカル楽譜をお渡ししたのはなんと11月15〜16日(ぎりぎり・・)!なのに2日後の練習ではすでに暗譜、本番でもしっとり美しい安定した歌唱で劇の終わりを締めていただけて本当にありがたかった。

 最終場のスコアが出来たのは19日。最終校正は指揮者の大井さんがお忙しいなか手伝ってくださり、パート譜はハッスルコピーが残業して間に合わせてくださるなど、もう全ての方にお世話になったオペラ公演で感謝と反省だらけ。

 今オペラが盛んといわれるが、実際は声楽家にかかる負担がものすごく大きく、意欲的な声楽家のボランティア精神の上にオペラ公演が成り立っているともいえる。最初に練習日程表をみてびっくりしたのだが、オペラの練習って3ヶ月(2ヶ月音楽稽古、1ヶ月立ち稽古)もやるのだ。それなのに本番はたった一回!(だいたいはダブル・キャストなので公演は2日あっても歌い手は一度しか歌わないことが多い)。それにかかる時間と交通費を考えると、おまけに今回のようになかなか作品ができない精神的ストレスも加わると全く「やってられない」だろう。モーツアルト劇場はかなり良心的らしいが、大組織だとほとんどノーギャラでチケット負担のみきびしい場合も多いとのこと。にもかかわらず声楽家の皆さん、いつも明るく陽気で感心してしまう。でもそういう現実では表面的に華やかでも日本でオペラが盛んとはまったく言えない気がする。

 日本に大勢いる有能で魅力的な歌い手が何とかオペラだけで食べていけるようになれないものだろうか。ま、そういう心配する前に、作曲が遅れないようにするのが先決だが。

2003.12.4