ヲ02年11月15日
モーツアルティッシモ!!
〜モーツアルト自身の企画による〜
(北とぴあ国際音楽祭記念事業)

北とぴあ・さくらホール

 正直言って私は特別なモーツアルト愛好家ではない。そりゃモーツアルトの作品は素晴らしいし間違いなく天才とは思うが・・。ま、ごく普通のファン。ではなぜ3時間を超えるオール・モーツアルト演奏会に出掛けたかと言えば(招待状いただいたからというのもあるけど)、モーツアルト先生ご本人がウイーンでの売り出しを賭けて開催した一世一代の自主プロデュース演奏会のプログラムを当時の楽器と演奏スタイルでそのまま再現、という企画に惹かれたのだ。

 プログラムに掲載された田辺秀樹先生の解説によると、1781年春にザルツブルグの大司教に辞表を叩きつけてウイーンに定住したモーツアルトは2年後の3月23日に、ウイーンのブルク劇場で自主演奏会を行い大成功を収めたのだが、「宮廷音楽家としての生活に終止符を打ち、フリーの音楽家になったモーツアルトは、自分で自分を売り出さなくてはならなかった。(中略)作曲と演奏のほかに、プログラム作り、演奏家との交渉、広告、収益予想、楽器の運搬など、現在なら音楽マネージャーが担当するあらゆる雑多な用事も、みずから算段しなくてはならなかった。」とのことだ。

 田辺先生に反論するわけではないが、現在も「あらゆる用事をこなす」有能なマネージャーを雇えるクラシック系作曲家なんてほとんどいないから、皆その時のモーツアルト先生と同じ事を今もやっているわけで。それにしても音楽史に燦然と輝く天才でさえ、そういう金銭的、事務的仕事に忙殺されながら珠玉の名作をあんなに書いたのかと思うと、頭が下がると同時に親近感がぐっと増すのを感じる。天才もやっぱり人間だったんだ。

 肝心の演奏だが、寺神戸亮さんの音楽(指揮、バイオリン共)には非常に魅力を感じた。生き生きしていて軽やかで、さすがにうわさ通りの逸材という印象。古楽の名手の演奏って寺神戸氏に限らず、とても軽やかで楽しそうなんですよね。日本の合唱界もこの辺ちょっと参考にするといいと思うなあ。ただオケ(レ・ポレアード)の音は、前半なかなか音が充実せずやきもきした。とりわけ第一バイオリンの音が弱かったような気がする。私の席がやや第二バイオリン寄りだったとはいえ、いささかバランスが悪かったかも。
第二部の一曲目セレナード二長調「ポストホルン」で指揮の寺神戸氏自身がコンサートマスター(第一バイオリン)も兼ねると、見違えるように生き生きした音色とバランスになり、その後はいい響きが保たれたが。

 ピアノフォルテ使用によるゲストのアレクセイ・リュピモフ氏のピアノコンチェルトは軽やかで表情豊かな音楽とピアノフォルテの音色が新鮮で大変面白かったが、個性的な演奏家だけに一晩に3回も聴かせられると正直言って少々ツライ。一曲目(Pf協奏曲ハ長調K415)身を乗り出して大拍手した私だが、二曲目(Pf協奏曲ニ長調K175+K382)では普通の拍手、2度の休憩のあとの即興演奏(これはあまり面白くなかった)は夜10時を回るというのにいつまでも延々とやっていて、頭の中ではブーイングが鳴っていた。一晩の演奏会でこれほど評価が変わることも珍しい。

 私はこの長い即興でギブアップして午後10時くらいに帰ってしまったが、プログラムはあと4曲残っているようだった。(本当は即興より後の曲を聴きたかったのだが)
 少々長すぎたとはいえ、この企画はモーツアルト先生ご自身のものなのだから(ピアノ協奏曲や即興がやたら多いのも、モーツアルト先生ご本人が演奏なさるためのものだったのだ)、きっと本物のモーツアルト愛好家の皆さんには大変充実の一夜だったはずだ。

 今回の企画に限らず、「北とぴあ」の企画演奏会っていつでも面白いので(ちょっと前まではもっと大がかりな音楽祭をやっていて毎年楽しみにしていたものだ)不況の折だがぜひ続けていただきたい。がんばってください。

2002.11.23