ヲ02年9月28日
第50回全日本吹奏楽コンクール全国大会
中学の部

 吹奏楽の殿堂「普門館」で一日吹奏楽の全国大会を聴くのは実に20年ぶり。当時まだ大学院生だった私の「序奏とアレグロ」という作品(最初オーケストラ曲として書いたものを自分でブラスアレンジした)が吹奏楽コンクールの課題曲に選ばれ、それを聴きにいって以来だ。当時「序奏とアレグロ」は課題曲としてかなり斬新で、難解すぎて訳がわからないという評判もあったから、あまり取り上げられないだろうと思っていたら、全国大会ではほとんどの団体がこれを選択して、しかもどこも完璧に演奏するのに驚いたものだ。たしか高校の部だったと思う。

 さて昔話はいいとして、今回は中学の部を審査員として聴いた。9人の審査員のうち、指揮者、作曲家(私)を除くと全員が木・金管・打の現役一流プレーヤーの皆さん。コンクールにはめずらしく批評家の先生ゼロ。いろんな楽器の専門家がおられるので、いろんな角度から評価がなされて、採点がかなりばらついたのは興味深かった。全国に進むほどの実力だから、各学校それぞれにいい面を持っていたということだろう。

 久しぶりに吹奏楽コンクールに立ち会って思ったのは「1〜2年でどうやったら初心者をこのレベルまで引き上げられるのか」という驚きと「日本て平和で豊かな国なんだな」という実感と「男の子はどこへいったのか」という素朴な疑問。

 きっと先生方には夏休みなんて一日もなかったんでしょう(合唱も同じだが)。中学生が大人向きの難しい曲を完璧に演奏する必要があるのかどうかわからないけれど、ずぶの初心者の生徒たちに手取足取り楽器指導するところから始めて、あれだけの立派な演奏に持っていく先生方の根気と熱意と研究心には尊敬の一言。

 演奏も立派だが、どの団体も立派な楽器を揃えていることにも感心する。全国大会だからとりわけ楽器が豊富に揃っている団体が多いのかもしれないが、それにしても管楽器だけでなくビブラフォンやマリンバ、Tam-tamなど高価な打楽器もほとんどの団体が揃えている。いい楽器を持っているから使いたい気持ちはわかるが、あまりに打楽器を多用しすぎる気もした。打楽器があまりウエイトを占める曲は演奏会で楽しむにはいいが、吹奏楽コンクールではやや印象が大味で散漫になる恐れがある。もっとも演奏の仕方にもよるだろうが。

 中学生とは思えない充実したサウンドの団体もあったが、メンバーはほとんど女子。男子の数は一割にも満たないように見えた。ベテランの先生にお聞きすると、中学生くらいくらいまでは女の子のほうが忍耐力、集中力がある。男の子ではこういう完璧を要求されるクラブの練習に耐えていけないそうだ。ふーむ。でも野球とかサッカーではかなり苛酷な練習にも耐えているように見えるが・・。女子が元気なのはとてもうれしいが、やはりバランス的にもう少し男子にも参加してもらえると尚うれしい。

 選曲は意外なほどオーケストラのアレンジ物が多かったが、昔からこうなのだろうか。クラシック名曲は編曲によってかなり表情を変えるが、レスピーギやチャイコフスキーのようにもともと金管が大活躍する曲はとりわけブラスアレンジも映えるようだ。
 オリジナルでは櫛田てつのすけ(字が難しすぎて変換できません)氏の作品が繊細、個性的で印象に残った。そういえばこの方の作品は二十年前も人気があったなあ。意外な所ではNHK大河ドラマ「利家とまつ」のサントラの吹奏楽アレンジ。アレンジの巧さもあるのだろうが、曲の派手な持ち味が吹奏楽にぴったりで楽しめた。私は聴けないがプログラムを見ると、高校、大学、一般の部などでは邦人作品も多く演奏されるようで同業としてうれしい。特に天野正道氏の作品は7団体に選ばれて一人勝ち状態だ。一度ぜひ作品を聴いてみたい。

 課題曲は邦人作品4曲。4曲とも違う個性を持った聴き応えのあるいい作品だったと思う。そのせいかバランス良く4曲とも選択されているようだった。私の好みでは特に「ラメント」(高昌帥 曲)の緊張感と「ラプソディア」(足立正 曲)のエンタテインメント性が印象に残った。何度も演奏されたのに飽きが来なかったのは優秀な作品ということだろう。

 最後になってしまったが演奏に一言。普門館という5,000人の巨大ホールで演奏するのはどの団体にとっても大変なことだろうと思う。特に午前の部は会場も暖まっていないし大きな舞台で音が散ってしまう不安もあって金管楽器が音量を出しすぎ、木管を覆い隠してしまう場面が多かった。もっともこれは経験も大切なので、何度か普門館の舞台に立って(言うのは簡単)、経験でバランス感覚を掴んでいくしかないのかもしれない。