ヲ02年7月13日
第13回奏楽堂日本歌曲コンクール
入賞記念コンサート

旧東京音楽学校奏楽堂

 今年の5月26日奏楽堂日本歌曲コンクールの本選がおこなわれた(らしい)。私は関わっていないので知らなかったのだが、その後関係者の方からお電話をいただき、もし入賞記念コンサートを聴きたければチケットを用意して下さるとのことだった。なんでも「C.ロセッティの4つの歌」(私の曲)を歌った方が一位を受賞なさったとのこと。それではぜひ聴かなくては。

 入賞記念コンサートは作曲部門(審査員長 西村朗氏)、歌唱部門(審査員長 中村健氏)の順で第三位、第二位、第一位と行われた。この日作曲部門を聴くことになるとは予想していなかったが、久しぶりにゲンダイ歌曲を聴いて実に懐かしかった。私の大学でも三年の時に一度だけ歌曲を提出しなくてはならず、みんな思い切り力んだ作品を書いて、超絶技巧(特にピアノの)と難解さと長さと重さを競ったものだった。そういう私も「涅槃」という題の15分の曲を書いたが。

 第三位の作品は遅刻して聞き損ない、第二位作品は辛うじてロビーでビデオカメラによるステージの様子と演奏を聴いただけなので、第一位に輝いた菅原拓馬氏作曲の「死人の故意」についてしかコメントできなくて残念。「死人の故意」というタイトルが「詩人の恋」(シューマンの有名歌曲集)のもじりというのはちょっと苦しいが、歌も伴奏もエネルギーに溢れ、テキストの選び方にも工夫が感じられて、若さのいい面が発揮されていた。ユーモアのセンスがあるのが強みで、内容が死を主題としたグロテスクなものにもかかわらず、演奏の好演もあってすがすがしい印象すら残した。演奏後ステージに上がった菅原氏の素直な喜び方も初々しく、この青年の今後の活躍を陰ながら応援せずにはおれない私であった。

 続いて歌唱部門では、入賞者の前に特別賞の奥田良三賞(高齢な方で優れた成績を挙げた方に送られる賞らしいが、高齢って何歳からだろう)の斎藤宣子さん(Sop)がノビのある声で「隅田川」(曲 梁田貞)を演奏した。女声合唱の興隆もあってシニア層のコンクール参加が目立つなか、こういう賞を設定するのはとてもいいことだと思う。

 上位入賞したのは三人共中堅と呼べる実力派のプロ。コンクールは新人の登竜門の役割を果たすことから、どうしても年齢制限が定められがちだが、歌曲に限っていうと20代では声の素質をみるくらいしかできないから本当の才能を見いだしにくい。声が成熟してくるのも表現技術が熟してくるのも30代半ば過ぎなのだから、こういう制限の少ないコンクールがあるのは本当によいことだ。

 第三位の悦田比呂子さん(Sop)はとにかく「鎮魂詞」(曲 石桁真礼生)の演奏が圧巻!太めの声なのに言葉が実にクリアで、音楽と言葉が見事に連動して内的な世界を表現していた。ピアノ(甲山紀子さん)のサポートがまたすばらしい。第二位斉藤京子さんは声、容姿共美しくチャーミング。難曲を歌いこなしたのが評価されたようだが、そういう高度なテクニックに加えて、私は特に小曲のデリケートな表現の巧みさに感心した。

 第一位神野靖子さん(Sop)は何といっても声が良い。しかも美声が陥りがちなワンパターンな表現でなく、やわらかく美しく、ボリュームのある声のダイナミックレンジの広さを生かした表情豊かな演奏はさすが。日本語の扱いもうまい。私の曲を歌って下さってどうもありがとう!!ただこの日はコンクールでコンビを組んだ小原孝さん(優秀共演者賞受賞)の伴奏ではなかったのがちょっと残念。コンクールで絶賛を博した(「21世紀の日本の歌はこうありたいと思わせる好唱」・・中村健氏の講評)神野・小原コンビによる「ロセッティの4つの歌」をぜひいつか聴いてみたいものだ。