ヲ02年3月6日
公開講座「わが国におけるオペラ制作の現状と課題」
主催 昭和音楽大学オペラ研究所

 会場 津田ホール

 昭和音楽大学オペラ研究所の主催による面白そうな公開講座があるというので、作曲をほったらかしにして出掛けてみた。

 前半の関根礼子さんの基調講演を特に聞きたかったのだが残念ながら間に合わず、後半のパネル・ディスカッションのみ聴講した。オーチャードホール、サントリーホール、新国立劇場、二期会オペラ振興会、日生劇場、日本オペラ振興会、びわ湖ホールの代表者というそうそうたる顔ぶれによるディスカッションであったが、前半それぞれのホールや団体の実状報告に時間を割きすぎてあまり盛り上がらず。後半になって、オペラ界の抱える問題がかなり出たのだが、時間の関係か日本人の気質ゆえか熱のこもった討論には発展せず、司会の美山良夫氏に指名された人がひとりずつ淡々と語る形に終始したのは少々もったいない気がした。

 一言でオペラ制作といっても、公共か民間か、東京か地方か、ホールか団体かといった立場によって、求めるオペラの質も観客層も違うから、それぞれが独自の戦いを展開していくしかなく、なかなか協力しにくいものかもしれないが、せっかくこれだけ顔ぶれが揃ったのなら、結論は出なくても「朝まで生テレビ」みたいに侃々諤々やっていただきたかった。途中「民間企業の寄付が免税にならない限り寄付金を増やすのはもう頭打ちだ。みんなで政府に働きかけよう」「地方自治体が共同でオペラ制作をするのは、アイデアとしてはいいが、この不況で自治体の足並みが揃わず実施に踏み切れない」などの発言もあったが、そういう苦情は私が学生のころから聞いていたような気がする。もしかして現状はあまり昔と変わっていないのだろうか。

 「質の高いオペラとは高額なギャラを出して有名な外国の歌手を呼ぶことだ」という某歌劇団の方の発言には驚いたが、実際地方ホールでの「超有名な人を外国から呼んだ時はチケットは完売するが、優秀な国内の歌手で新演出などやっても全然客が入らない」という実状を聞くと、一概に有名指向を非難するわけにもいかないのかと少々暗澹たる気持ちになる。それにオペラ制作の現状と課題というから新作オペラの話がもっと出るのかと思ったのに、肝心の日本オペラの話はあまり出てこなかったのも寂しかった。でもなあ、有名外国人による有名な演目のみ人気があって新作は期待されない世界って、本当に日本に根付いた文化っていえるのかなあ。それでいて新作というと、前衛作曲家による世界初演でなくては、などと肩肘張った発想ばかりするし。それじゃ新作にお客が入らなくても仕方ないのでは。本当の文化って最初はもっと自然発生的に雑草のように生まれてくるものではないのかな。

 と例によって、外野なのをいいことに文句を言ってみたが、2時間のディスカッションを聞いて得るところも多々あった。私学の研究期間でこういう大きい研究に目を向けるのはすばらしいことだと思う。平成13年より5年に渡り「海外主要オペラ劇場の現状調査、比較分析に基づく、我が国のオペラを主とした劇場・団体と文化・芸術振興施策のあり方の調査研究」を行っている(この講座もその一環)昭和音大オペラ研究所の活動は、今後も注目していきたい。

 そうそう、講座を受講するに当たって資料としていただいた「日本のオペラ年鑑」(編集・発行 オペラ団体協議会)は大変興味深く参考になった。これをもらえただけで、わざわざ足を運んだ甲斐があったというものだ。