ヲ01年12月27日
レクチャーコンサート
日本の戦後音楽史再考

 会場 JTアートホールアフィニス

 暮れも押し詰まった27日に、かなり渋い内容の演奏会が開催された。企画制作は日本戦後音楽史研究会(石田一志氏ほか11人の音楽学者によって構成されている)。主催はアフィニス財団。このホール、200人程度の小ホールながら内装はなかなか贅沢、虎ノ門の真ん中、立派なビルの2階にある。たばこ産業ってやっぱりお金持ちなんだな。この不況の折、主催公演のみで運営している数少ないホールのひとつである。これからもがんばって、マニアックな演奏会をどんどん主催していただきたい。

 今回は日本の戦後音楽史再考(今、よみがえる時代の息吹)というシリーズの第三回を聴いた。作曲家グループにとらわれず、終戦直後から'50年代までの作品がいかに多様なあり方を示していたか、個人個人の作風の相違に光をあてた構成らしい。
 研究会の佐野光司氏によると「日本の音楽とは何だろうか、という地域的なアイデンティティへの認識を欠いたグローバルな視野はあり得ず、グローバルな視野なしに地域的なアイデンティティは見えてこない。私たちは、この演奏会シリーズをそうした日本の音楽のアイデンティティを識るための礎石として考えている。」だそうだ。ふーむ。

 プログラムは須加田礒太郎・石桁真禮生・一柳慧・塚谷晃弘各氏の弦楽四重奏曲と、金井喜久子各氏のピアノ五重奏曲という、演奏初演、日本初演、そのほか滅多に聞けない曲がずらっと並ぶ興味深いものであった。年末でがらがらかと思ったら意外に客席は埋まっており、熱気もあってよかったよかった。

 私は石桁真禮生の弟子なので、当然これを目当てに出掛けたのだが遅刻して聴けず。私ってだめなヤツ。気を取り直して、残り3曲じっくり聴くことにした。年末睡眠時間が足りない日が続いてコンディションが悪かったせいも大きいが、いやあ、長かった。永遠に終わらないのではないかと思うほど長く感じられる演奏会だった。それぞれに曲は個性的で面白く、時間も20分程度の作品だったのに、なぜあんなに眠かったのか。

 HPでは批判はなるべくしない主義だが、どう考えても演奏に問題があるように思えてならなかった。弦楽四重奏の4人とも、音は美しく、音楽もきっちり丁寧。それは認める。おまけに容姿も美しく、3人の美しい女性奏者は両肩の出るドレスを堂々着こなし、黒一点の男性奏者もハンサム。目の保養にもなるのだったが・・。いい音で、音を正確になぞっただけでは、曲の構成、しかけといったものがほとんど立体的に浮かび上がってこない。高度なソルフェージュを聴かされているような物足りなさが眠気を誘ったのではないだろうか。ちょっと厳しいかな。でもせっかくお金をかけて滅多に演奏されない作品を掘り起こす以上、演奏に説得力がなければ「なあんだ、つまらない曲」という誤解を与えてしまってかえって逆効果になる。一柳、塚谷、金井という全然違ったキャラクターの作品なのに、音色が全部同じではねえ。

 たとえ演奏の責任でも、評論家はそれを曲の責任として評価を下すのが常である。武満作品のように頻繁に再演されるものはともかく、ほとんどの現代音楽作家の場合、たった一回の演奏が陳腐だったために、作品に濡れ衣を着せられてしまうことは多い。こういう企画ものでは、企画を立てることだけに満足せず、より作品の真価を引き出す上質の演奏も提供していただきたいものだ。