ヲ01年5月8日
武満徹の雅楽/秋庭歌一具
演奏=伶楽舎

 会場 サントリーホール

 これは伶楽舎のコンサートなのだから、普通なら伶楽舎第何回公演となるところだろうに、タイトルは作曲者名と作品名で、ただ演奏=伶楽舎とあるだけ。随分控えめな団体だなあと思ったのが最初の印象である。でもあとで知ったところによると、伶楽舎というのは武満徹の秋庭歌を演奏するために結成された団体のようなのだ。今回はそれに加えて、芸術監督の芝祐靖氏による「呼韓邪單于(こかんやぜんう)」という作品も演奏された。

 「秋庭歌」のほうは、むかーしNHKの芸術劇場で、初演(たぶん'79年の国立劇場雅楽公演の録画だったと思う)を聞いているので、今回は芝祐靖氏の作品を聴くつもりだったが・・。雨の中大遅刻。プログラムが長編2作なので、遅刻イコール前半聴き損ねなのであった。がっくり。しかも前半が芝祐靖氏による「呼韓邪單于」だったので、何のために来たのかわからない私であった。仕方ないので、今のうちなにかお腹に入れておこうと、喫茶コーナーでサンドイッチを頼んだら何と売り切れ。ふつう、こういう軽食は休憩の時つまむものではないか、なのに休憩前にすでに売り切れってどういうこと。商売をやる気はあるのか、と空腹で怒りっぽくなる私であった。仕方がないので、サンドイッチの変わりに「舞楽」(日本コロンビア2枚組¥5,250)というCDを購入。実用編と書いてあるのが意味不明なまま、ジャケット写真にひかれて衝動買いしてしまった。開けて添付のパンフレットを読むと、「舞楽」を習得した一般の人々のための練習用テープとある。最近はカルチャースクールなどで、雅楽の舞いをやる人々が増えてきているそうだ。能の舞いをやる人がいるのは知っていたが、そうですか、舞楽も・・。カルチャースクールって古典芸能の伝承に貢献しているんですね。とすると、演奏会の聴衆のなかにも、カルチャースクールの生徒さんがたくさん混じっておられたのだろうか。

 ようやく後半の「秋庭歌」がはじまったのは午後八時半、50分も集中力が持つか心配したが、美しい響きが特徴の武満作品の中でもとりわけ聴きやすい美しい曲で、前衛的な創作雅楽などという感じはまるでなく、特に前半は心地よいヒーリング・ミュージックに身を浸した感じであった。雅楽の特殊な楽器の音色を見事に引き出した名曲で、芝祐靖氏がこの曲を演奏するために宮内庁をやめ伶楽舎を結成したというのもわかる気がした。「この曲は、広々とした空間においてのみ作品の色彩が醸し出せる」という芝氏の言葉どおり、サントリーホールの空間に雅楽の響きがじつに鮮明に効果的に浮かび上がったのであった。また指揮者なしの29人の合奏なのに、ぴったり息が合っていたのもさすが。