ヲ00年12月3日
コントラバスの時代
コントラバスレクチャー&コンサート溝入敬三氏を迎えて

会場 目白「現代邦楽研究所TAスタジオ」

 日本現代音楽協会の主催するレクチャー&コンサートの第4弾。今までに、トランペット、トロンボーン、オーボエと開催されてきたシリーズであるが、今回はコントラバスの名手溝入敬三氏による、コントラバスの特殊奏法の講義と実演がおこなわれた。いやもうほんとに参考になる、実践的なレクチャーで、かなり終了時間が延びたのにも気づかないほど、面白くて引き込まれる数時間であった。

 コントラバスという楽器は、オーケストラで使っている分には、チェロの補強的な色合いが濃く、楽器が大きい分小回りが利かず、弓も短くて頻繁に返さなくてはならず、音程定まらず、ミュートも効かず、補強以上のものを求めてはいけない楽器という扱いを受けてきた。有名な管弦楽法の本にもかなり偏見にみちたことが未だに書いてあるが、現代において、少なくともソロ楽器としてのコントラバスがいかに運動性に富んだ、魅力のある楽器であるかは知っておくべき、ということで、いろいろな基礎知識から始まり、特殊奏法てんこ盛りの現代作品を、実際に楽譜(というか図形というか)を見ながら、溝入氏のわかりやすい解説付き超絶技巧演奏で間近に聴くことができた。ありそうで滅多にない、ナイスな企画である。日本現代音楽協会えらい。

 それにしても、ピチカートやハーモニクスに始まって、ボデイを手のひらや拳固で叩いたり、弓のうらで弦を弾いたり、声をだしつつ弾いたり、弓で銅鑼をこすったり、逆に打楽器のばちでコントラバスの弦を叩いたり、まあ、もうお馴染みとも言える奏法ではあるが、作曲家も実に高度な、あるいはへんてこな奏法を苦し紛れに考え出したものだ。全部まともに奏したら、コントラバス本体も弓もこわれてしまいそう。私は現代音楽といっても、実験音楽派では全くないので、実際の作品に使う特殊奏法はたぶん限られるだろうがでも面白かった。脳波に刺激を与えられたかんじだ。そのうちぜひ、コントラバスのソロの曲を書いてみたい。

 演奏活動だけでも多忙を極めるはずなのに、たった数十人の作曲家のために、読み応えのある参考資料を用意し、わかりやすいレクチャーと名演奏を聴かせて下さった溝入氏に心から敬意を表しつつ、氏の新CD「コントラバス・タイフーン」を手に、帰途についたのであった。