ヲ00年11月10日
佐竹由美(なおみ)ソプラノリサイタル

会場 所沢文化センターミューズ マーキーホール

 今もっとも活躍するソプラノのひとり佐竹由美さんだが、私が彼女の演奏を初めて聴いたのは案外最近、2年前のモーツアルトのハ短調ミサのソリストとしてだったと思う。
だが彼女の実力を本当に知ったのは、同じ年の9月に聴いた、作曲家・国枝春恵さんの作品個展での演奏。ああいう現代音楽の初演では、演奏家の作品読解能力が、実にはっきり表われる。クリスタル・ヴォイスのコロラトゥーラ・ソプラノという枠では括れない、するどい才能を持った方だと思った。その後、私の歌曲を何度か歌っていただいて、その確信は更に深まっている。古典モノもいいけれど、もっと現代音楽や、日本歌曲シーンで活躍してほしい・・なんて内心思っていた折、この演奏会が開催された。

 バッハのカンタータ51番というソプラノ独唱用(当時はカストラート用ということだろうけれど)の名曲をメインに、それとほぼ同時代の音楽である、ヴィヴァルディ、チェスティ、ヘンデルの作品を前半に置くなど、プログラミングがとても考えられている。人気のバッハ研究家、礒山雅さんも登場、リラックスした雰囲気で、いろいろ面白くためになるお話も伺えて、充実した内容のコンサートとなった。

 肝心の演奏だが、正直いってコロラトゥーラの技というものにあんまり関心のない私でさえ、繊細で透明感溢れる美声が生み出すテクニックをほんとに素晴らしいと感じた。休憩時間にお会いした国立音大のS教授も絶賛しておられたし。でもそういう技術力をこえてさらに私が感銘を受けたのは、佐竹さんの作品に対する誠実で謙虚な姿勢というか、長い年月をかけてバッハを勉強し続けてきた彼女の真摯な生き方が、はっきり演奏にあらわれていたこと。ああ、佐竹さんの音楽の基盤はバッハなんだなと、納得しました。

 競演の古楽アンサンブルの演奏がこれまたよくて・・。特に田崎瑞博さん(最近大活躍のご様子)が、すばらしかったです。私もしっかり生きないと・・などとしみじみ反省しつつ帰途についたのであった。