ヲ00年11月2日
野島稔ピアノリサイタル
トッパンホール・オープニング記念コンサート

会場 トッパンホール

 野島稔さんといえば、学生時代(もっと後だったか?)に聴いた松村禎三氏のピアノ協奏曲の初演者という記憶が強烈である。記憶は強烈で、曲も強烈だったが、どんなタイプのピアニストかは、ほとんどわからなかった。何しろ、ピアノ協奏曲といえばピアノが主役のはずなのに、分散和音の同型反復ばかり延々と引き続ける曲なので、強靱な指の筋力に感心した以外は、全くピアニストの個性がつかめなかったのである(もちろん曲自体は個性的な名曲ですが)。

 今回友人に誘われて、恥ずかしながら、初めて野島氏の演奏をしっかり聴く機会を持った。メロディ、オブリガート、伴奏部、低音などの弾き分けがとてもクリアで、曲の構造がくっきり浮かび上がってくる。そして、旋律の歌わせ方がすばらしい。この日のプログラムは、バッハ平均率から数曲、シューマン交響的練習曲、ドビュッシー前奏曲集第2集というものだったが、私の趣味では、とりわけシューマンが素晴らしいと感じた。シューマンの技巧的な大曲を演奏会で弾くピアニストは多いが、こんなに引き込まれて聴いたのは、久しぶりである。ステージに出てきたときの印象は、素っ気ない感じなのに、ピアノの演奏は理知的でありながら、とても情熱的。次はぜひオール・リスト・プログラムで聴いてみたい。

 今回が、トッパンホールで開かれる初のピアノリサイタル、とのことで、ピアノの鳴りがやや悪いようにも感じたが、だんだん良くなるのでしょう。上品でこじんまりした気持ち良いホールです。