52 おだんご

お食事中の方はお読みにならないでください。

 この時期「おだんご」と言えば、指す物はたったひとつ。泣く子も黙る「ホウ酸だんご」のことである。4月に入った頃から、私はあせっていた。「おだんごを作らなくては。早くおだんごを・・。」引越して初めての夏を迎えようとする大切な時期、しかも今度のマンションは築35年、諸設備は老朽化、すき間も多い。黒光りするあの虫が出ないはずのない環境だ。とにかく早く「おだんご」を作らなければ。

 私の実家は一戸建てで庭に犬を飼っていたから、アレが侵入しやすい環境だったはずだが、母親がきれい好きで几帳面だったせいで、ほとんどお目にかからずにすんでいた。問題はマンション暮らしをはじめてからである。

 マンションでは一戸だけどんなに清潔に暮らしても、排水溝や諸々の管は全戸繋がっているから、アレの外部からの侵入を防ぐのはほとんど不可能だ。周りにルーズな人がいたり、ゴミ収集所の管理が悪かったり、一階に飲食店が入っていたりするともう悪夢である。夏のたびに悩まされるのにうんざりし、三度目に住んだマンションは、思い切ってお金をかけ、全面改装をしてすき間のない最新式システム・キッチンを取り付けた。電気ショックでアレの侵入を防ぐ細工がされているやつだ。キッチンの次に出没しやすいお風呂場も全くすき間のない最新ユニットバス、トイレも付け替え床も張り替え、不潔な場所やすき間のない完璧な態勢が完了した。これで一安心。

 が・・。引越したばかりの7月、涼しい風を入れようと夜中にガラス戸を大きく開けた時、目に入ったのはこちらに向かってベランダづたいにせっせと歩いてくるアレの姿だった。ぎゃあ。アレはベランダから侵入してくるのだったか。急いでベランダの戸をぴしゃりと閉め、それではと玄関ドアを大きく開け放って風を通そうとしたが、やはり玄関通路を向こうからやってくるアレの姿。錯乱した私は、夜中の一時過ぎだったにもかかわらず、自転車に飛び乗り最寄りのコンビニで「ホイホイ」系のアレ退治用品を山のように購入して帰り、すべての戸を閉め切って冷房をぎんぎんにかけつつ、「ほいほい」の家をたくさん組み立てのであった。その夏は何とか凌いだものの、翌年の春を迎えた私は憂鬱だった。また夏がやってくる・・。

 そんなある日、何気なくドアの新聞受けを除くと、黄色いだんごのようなものが14〜5個入ったビニール袋が入っている。マンションの自治会からで「アレ予防に、このだんごを家の四隅に置くように。」と書いてある。こんなキビ団子のようなもの何に効くのか半信半疑だったが、藁にもすがる気分でそれを家中の隅に配置した。それからというもの、アレは全く姿を現さなくなったのである。毎年5月末に自治会から配られるだんごを置くだけで、それから十年間全く「一度も」アレの姿を見ずに済んだのである!

 今回のマンションには「だんご」を配ってくれるような親切な自治会はないようなので仕方なく自分で作ろうとインターネットで調べたところ、あったあった。「ホウ酸だんご」の作り方がどんどん引っかかってくる。小麦粉だの、たまねぎのすり下ろしだの、牛乳や卵を使うものが多いようだが、私は前のマンションで効果絶大を実感した「ぬか」使用のだんごを作ることにした。アレがだんごを食べると非常に喉がかわき、巣に戻ったところでコロリと逝く上、そのフンを食した仲間もコロリと逝く・・らしい。

 材料は米ぬか140g、ホウ酸40g、グリセリン20ml、水70ml

 作り方はぬかとホウ酸をよくまぜ、それにグリセリン水を加えてだんごに丸めるだけ。アルミフォイルの小さい皿にのせただんごを、台所、バスルーム、洗面所、押入、その他部屋の四隅に置くだけ。騙されたと思って試してみてください。私もゴールデンウィーク最後の行事として大量の「だんご」を制作し家中に配置完了。これでひと安心だ。
参考HP 「住まいの衛生情報」
保健所の環境衛生監視員のページ。ホウ酸だんごの作り方以外にも衛生関係で役に立つ情報がたくさん。

 ただし、幼児やペットがいるご家庭では「だんご」は厳禁です。食べると大変なことになるようですので。それから、配置して特に最初の2〜3日はだんごにおびき寄せられたアレと鉢合わせする危険が高いので、だんごを家中にまいたら、家を締めきってしばらく旅行にでも出掛けてはいかがでしょう。

2004.5.17