45 気晴らし

 最近一日中作曲している。これほど毎日長時間作曲をするのは自分史上初めてだ。創作意欲に目覚めたのではなく、締切から逆算した結果必要に迫られてやっていることだが。たぶん11月までずっとこのペースが続くはずである。長嘆息。何しろ私は一カ所を仕上げるのに何度も何度も推敲を重ねる人間(またの名を推敲の鬼)なので、どんなに急いでも時間短縮には限度がある。作曲時間を物理的に増やすしかないのである。

 先日大物作曲家 I 先生とお話ししたら「僕なんて今オペラ2つと、交響曲2つと、合唱組曲4つかかえている」とのこと・・、いったいどういう脳味噌構造をしておられるのだろうか。I 先生はともかく私の頭はオペラひとつで充分飽和状態である。こういう時は身近に気張らしを見つけないと窒息してしまう。

 私にはHPがあるので、自分の掲示板を眺めるのはかなり気晴らしになる。もっとも定期的に更新しなくてはならないので、却って首がしまっているともいえるが。

 それ以外では旅のガイドブックや料理の本を読むのがいい気晴らしになる。なるべく美しい写真満載のものがいい。旅行だと、今ならアジアの高級避暑地。アマンプリやアマンジオなどのアマンリゾート、フォーシーズンズなど、プライベートビーチやプール付の溜息のでるような超豪華ホテルに長期間宿泊するプランを立てる。誰と行って飛行機はいつ頃の何便で、着いたら当日のプランは、観光ルートは、何をおみやげに購入するかなど、なるべく詳細なプランを立てる。楽しい。想像するだけなので一泊30万円だろうがへいちゃらである。だからうちにはそういう高級リゾートの本がたくさんある。本を読むだけでほとんど実際行ったのと変わらない満足が得られるのだから安い物だ。それに各旅行会社のカタログだったら、カラー写真満載のうえ無料だ。

 京都や奈良のガイドブックでも同じ事をやる。気軽なところでは東京一日散歩なども飽きない。ルートを考えて途中立ち寄るランチとお茶するお店を決めるのはほんとに楽しい。実際行ってみると、246沿いの道などすごい排気ガスで喉がやられたりするが、想像するだけなら大丈夫。

 同様に手の込んだフランス料理や中華料理の本も楽しい。これも美しい写真付であるのが条件。料理する過程を想像し、出来た料理を想像するのが楽しい。そういう料理本を見ながら、お客様をお呼びすることを仮定して、お出しする料理の献立を考えるのはさらに楽しい。お昼に友人を呼ぶなら前菜は小エビを使って、メインディッシュは子羊を香草のグリルにして、デザートは・・。ちょっと目上の年長の方をお呼びするなら、メインは鯉の姿揚けの甘酢あんかけにして、・・なんて考えだすと止まらなくなってくる。買い物リストや前日、当日の料理やそうじの手順まで考えて喜んでいる。もっとも実際にそんな面倒なことをするのはごめんだが。

 それにもう一つ、締切が迫ってくるとやる気晴らしは、演奏会のプランを立てることである。目の前の切迫した状態を放置して、来年あたり演奏会やるとしたら、どういう曲をピックアップして、新曲を加えるとしたらどんな編成の曲にして、演奏は誰に頼んで、ちらしのデザインは、ホールは・・などとのめり込んでいく。

 こうしてみると想像力さえあれば、毎日家にいて作曲するだけの日々でも意外なくらい楽しい毎日を送れるものである。・・と、自分に言い聞かせて11月まで乗り切ることにしよう。

2003.5.11