28 郵送手段 

 今思えば大学に入ったばかりの頃はのんびりしたものだった。学年末の作品提出以外締め切りもなく、好きな曲を好きな時に書いていれば良かったのだから。それでも本人は大忙しの気分で、提出締め切りの一ヶ月も前から「ちゃんと曲を書き上げられるだろうか、ちゃんと期日に間に合うだろうか・・」と心配で胃を痛くしていたものだ。

 経験を積むことによって少しずつタフになったいったものの、20代から30代にかけての「締め切り」とは、年に数度の委嘱作品締め切りと、たまに受けるオーケストラ作品コンクールの受付締切日程度だったから、それほど郵送手段に悩むこともなかった。急ぐときは速達を使う、といった程度の知識だったと思う。

 30才を少し越えたころに一度、日本現代音楽協会の事務局で会報を全会員に郵送する手伝いをした。当時の事務局員Sさんは、計量器や各種切手シート、速達印まで所持していて、会員向けの郵便物の重さをひとつ計って郵送料を調べると、切手シートをすごい速さで一枚ずつに切り分け、数百の郵便物に手際よく貼り、ぽんぽんと朱色の速達印を捺し、それを大袋に入れて駅前のポストに持っていき一挙に投函するのだった。それらの作業はみんな郵便局員にやってもらうことだと思っていた私は目からうろこが落ちる思いだった。大層感心して、翌日には計量器と速達印を買いにデパートに走ったものだ。今仕事場の引き出しには10円から380円まで12種類の切手が(ちゃんと一枚ずつに切り分けて)ストック(50円、80円と速達料金の270円切手は特に多め)してあるし、計量器も速達印もちゃんと手元にあるのは、その時以来の習慣だ。

 郵便局は5時までと思っていたのが、本局に行きさえすれば夜7時まで営業しており
本局の夜間受付を利用すれば24時間郵便物を受け付けてもらえることもわかってきた。最終の速達回収車が出てしまうのは夜中の10時くらいだが、もしそれを逃しても本局前のポストに投函しておけば朝一番の回収が午前4時だから、近場なら必ず当日夕方までに着くということもわかった。急に忙しくなってきた30代後半には、夜中に仕上がった曲を封筒に入れ、重さを量り切手を貼り速達印を捺し、深夜に車を飛ばして郵便局本局まで持っていく、という作業を随分繰り返したものだ。

 そして今、締め切りぎりぎりに使用するのは、郵便局のバイク便(新超特急郵便)だ。時間を指定すれば家に取りに来てくれて、2〜3時間以内に相手に届けてくれる。サービスの割には安いし、どうしても今日中にという時本当にありがたいシステムだ。もっともこれは東京都区内だけで、それ以外の近場は未だに締め切り前日の夜10時、
最悪でも当日朝4時までに郵便局本局に持っていくのが最終手段だろう。郵送先が東京から300km圏をはずれる場合は、更に安全を期して宅急便タイムサービス(翌朝10時
着便)を使う。前日の午後6時半までに宅急便の集配所に直接持っていかなくてはならない(締切り時間は集配所によって異なる)のが少々辛いが、全国各地に翌朝かならず着くというのはすごい。さすが宅急便。元はといえば、宅急便が次々と優れたサービスを提供してくれたおかげで、旧態依然としていた郵便局のサービスも向上したのだ。

 なお当日着く特急便よりさらに早く送る方法には、楽譜データを圧縮添付ファイルにしてメールで送るというのがある。これならどこに送ろうが郵送時間はほとんどかからないが、せっかくきれいに浄書した楽譜Dataを変換したり圧縮したりすると、スラーの位置がずれたり飛んだりするのではないか心配だし、相手が出版社でない場合、こちらの使っている音楽ソフトを相手方PCもインストールしている確率はかなり低い。急いでいるとき利用するにはまだ危険度が高いといえるだろう。そのうち、昔見たSF漫画のように楽譜本体をどこにでも瞬間転送できるようになればもう無敵だが、そうまでして郵送時間を短縮したところで、結局作品を仕上げるのが更にぎりぎりまで遅くなるだけという気もする。要は、2〜3日余裕を見て早めに作品を仕上げさえすればいい話なのだが・・それがなかなか。