25 いまどき学生の受業態度

 コンクールの審査では大学の先生とご一緒することが多い。休憩時間に雑談していると、よく最近の学生の受業態度の悪さが話題にのぼる。遅刻する早退する授業は聞かない無駄口は叩くモノは食べる、自分の頭で考えないですぐ人に聞く、などなど。じつに嘆かわしいことだ・・。

 と言いたいところだが、正直言って私の学生の頃も大して違わなかったように思う。東京芸大に入学したての頃、黛敏郎先生も同じようなことを言っておられた。「みんな自分で物を考えようとしない。一生懸命やりますから何をやればいいか教えてくださいなんて言っていてはダメだ。何をやるかを自分の頭で考え見つけ出すのが勉強だ!」
さすがいいことおっしゃる。黛先生も不甲斐ない芸大学生の態度に相当イライラなさっただろうが、そうはいっても作曲の授業は専門分野だから皆それなりに本気だったし、先生のことも尊敬していた。
 しかしこれが一般教養科目となると一挙に脱力、受講票さえ提出すればOK、授業なんてほとんど聞いていなかった(人もいた)。いまでも覚えているのは、朝一番の英語の授業でけっして前を向かなかった先生のこと。何かしゃべるときは天井を見上げ、下を向き、聞き取りにくい声でひたすら英文和訳していく授業だった。40人くらいのクラスなのだが、朝9時に始まるころは学生が2〜3人しかいない。それが終業10分前くらいに一気に増えて教室いっぱいになる。先生はそれに気づかない顔をして、授業の最後に全員に受講票を配って下さったっけ。前を見ないのはかなしい現実を見たくなかったのだろうと思うと胸が痛む。
 間違いなく遅刻する学生が悪い!とはいえ授業のほうも相当つまらないのが多かったなあ。百人以上のマンモス教室で、教科書を小声で読んで解説するだけという授業をしたら、誰も本気で聞いていなくても仕方ないだろう。普通大学のマンモス授業もああいった無気力なものが多いのだろうか。情報量も多く、聞き取りやすく、刺激に満ちた面白い授業なら、学生の受講態度も変わってくるのではないだろうか。現に当時も小泉文夫さんの民族音楽の講義は本当に面白く、大教室に入りきらないほどの学生が食い入るように聞いていたものだ。授業の質の向上も必要だと言いたい。

 しかしまあどんな授業であれ、やはり大学生ともなったら大人の受業態度で臨むべきで、せめて傍若無人な遅刻・早退をなくすべきだろう。

 それで思い出すのが私の通った自動車教習所(レインボーモータースクールという所です・・お勧め)。教官はみんな紳士的だったのに授業には遅刻、早退、私語は全然なかった。まだやんちゃな男の子たちもいっぱい来ていたのにである。
 講義は教官2人で一組。ひとりが教壇でしゃべり、一人は教室内を回る。それだけでかなり受講者の気が引き締まる。ねむけも飛ぶ。私語も慎む。まず講義の第1日目、授業開始時刻ぴったりに教官のひとりが教室のドアを閉める。当然何人もが途中で入ってこようとする。そのたびに、教壇でマイクを持った方の教官が「この授業はもう始まっているので今から加わると他の受講者に迷惑がかかる。受けたかったら次回、開始時刻前に来なさい」と言い放つ。もう一人の教官が静かにドアを閉める。それだけである。それだけで、どなったり威嚇したりすることなく、次の授業から皆ちゃんと開始時刻に教室に集まるようになったのである。あまりの見事な手並みに感動してしまった私だ。これ、大学の授業にも絶対使えると思うのだが・・。

2001.12.4