16 甘いもの

 日頃はこってりした甘い物はあまり食べないし、コーヒーや紅茶にも砂糖はいれない(胃を守るためにミルクは入れる)。べつに甘い物が嫌いなわけではなくて、おやつにケーキひとつとかおいしい焼き菓子とかが出てきたら、うれしくいただく。でも、たとえば豪華化粧箱入り羊羹三本詰め合わせをもらったり(滅多にないが)、食べ放題のケーキ・ブッフェで3つも4つも食べている人がいたり、デパートのお菓子売り場でクッキーを焼く濃厚なバターのにおいがぼわんとたちこめていたりすると、食べなくても少し胸焼けしてくる。要するに甘さ、量とも過度でさえなければOKという、ごくごく一般的なレベルの味覚といえるだろう。 

 ところが不思議なことに、作曲の締め切りでおしりに火がついてくると、人が変わったようにがぜん甘い物が食べたくなってくるのだ。オーケストレーションや清書だとそうでもないが、ゼロから絞り出さねばならないスケッチを長時間続けると、口で言えないくらいにくたくたになって、大げさなようだが、まさに「夕鶴」で夜通しはたを織ったあとの「つう」の心境、もしくはほとんど乾いているのに更に最後の一滴まで絞り切られた雑巾のような心境になる。そんなとき体が、というか頭が甘い物を切実に要求してくるのだ。

 甘い物といってもかりんとうだのクッキーだの、大量に食べられるほのぼのした甘さのものは全く役に立たない。そのなものは甘いうちに入らないのだ!だから作曲が緊迫した状況になってくると、出掛けた折にかならず濃厚なチョコレートをたくさん買い込んでくる。チョコに限らず、純度の高いこってりした、甘さの固まりのようなヤツなら何でも。マロン・グラッセ、中華風のおかしやあんまん(黒砂糖とごま油の入った濃厚なもの)、練り羊羹とかあんこを固めたような和菓子も大歓迎で、とにかく日頃は見ただけで歯の浮きそうな、あるいは鼻血の出そうな甘いものを食べまくる。夜中に禁断症状が出た時、あいにくストックが切れてたりすると、台所の戸棚をくまなく探して、正月用にストックおいた「ゆであずき」の缶詰を見つけだし、おぜんざいにして食べてしまったりする。書いているだけで胃に悪そうだ。全く我ながら何をやっているやら。

 普通に考えたら、2〜3ヶ月も作曲で缶詰状態になったら、自然ダイエットになりそうなものだが、私の場合は運動不足の上に甘い物漬けで却って太ってしまう。やれやれ。

2001.2.18