11 ピースとコピー

 日本では、合唱作品はほとんど組曲か曲集の形で出版される。私なども、大学合唱団から組曲の委嘱を受けたのが最初だったから、合唱曲といえは組曲で書くもの、それが一冊となって出版されるのがあたりまえと、かなり長い間思い込んでいた。小品を書いても一曲で放置せず、何曲か同じコンセプトの作品を書き貯めて曲集にまとめるのが普通だし、単一楽章の作品は長編であることが多く、一曲でもかなりのページ数があるから、表紙・解説付きという、組曲と同じ体裁で出版されることになる。だから、私の作品でピース出版された数は極端に少ない。NHKコンクールの課題曲2曲(「もえる緑をこころに」「めばえ」)と、教育芸術社から小学生向きにでた「トムトムおじさんの綿菓子屋」(プロモート用)の3曲くらいだろうか。

 はっきり言って、作曲者にとっては、ピースより、自分の名前で一冊の厚い本にまとまったほうがはるかにうれしい。本棚でも見栄えが全然違います。

 でも歌う立場からすると、ピースで購入したいことは多いのではないだろうか。教育の現場で使うとき、またはアンコールで使う時など、ピースのほうが便利なことは多いはずだ。特に最近は無伴奏の作品が主流になってきて、かなり骨のある難曲でも、ページ数はどんどん減る傾向にある。なのに、なぜピース出版が極端に少ないか、といえば皆さんもご存じのようにみんなコピーされてしまうから。歌う人数を正確に把握できるコンクールの課題曲ならまだしも、アンコール・ピースとなったらもう絶望的にコピー無法地帯である。なんとかならないものだろうか。

 これは自分の利益のためにいっているのではない。作曲者にとっては、ピースの印税というのは大した額ではないから、それよりはコピー譜であろうと、より多くの人に自作を愛唱してもらったほうがうれしいんですよ、ホントに。でも出版社は慈善事業ではないから、この不景気にみんなにコピーされていたら倒産してしまう。特にクラシック産業は今大変だから、ピースで出版するのをいやがるのは当然といえるだろう。実は歌い手にとってこそ便利なピースなのに、不正コピーする事で、自ら道を閉ざしてしまっているように見える。

 みんなが演奏する人数分きっちり購入するようになれば(100%はあり得ないにせよせめて50%)出版社もピース楽譜の出版をこわがらなくなるし、歌う側も、欲しい楽譜だけ安く入手できて、お互い得なのではないかと思うのだが・・。

2000.11.19