『ベーオウルフ』について

 

1 はじめに

2 『ベーオウルフ』に登場する国々

3 『ベーオウルフ』に登場する伝説的人物

デネの人々|スウェーアの人々|イェーアトの人々

4 『ベーオウルフ』試訳(随時更新)

5 参考文献(Selected Bibliography)

『ベーオウルフ』写本冒頭

 

1 はじめに

『ベーオウルフ』って何?

今から約1000年ほど前に書き残された一冊の写本にのみ残された、当時の英語(古英語/古期英語という)の叙事詩。主人公の名前をとって、今日『ベーオウルフ』(Beowulf)という名前で呼ばれている物語。中世初期に、北方ゲルマン人たちの伝承を今に伝えるおそらく最古の文献の一つ。物語に登場する人物名(5世紀に実在したことがわかっている)から、物語自体が作られたのは写本が書かれた10世紀末よりもはるか昔であろうと推測されています。当時の人々の文化、生活習慣、貴族の倫理、精神的な営み、キリスト教化異臭以前からの伝統などが、文学作品に色濃く反映されているため、単なる歴史的文献以上に、当時の人々の内面を理解するためにも重要な作品だと見なされています。

とはいえ、長い間、この作品に登場する歴史的な人物に関する記述ばかりが注目されていた為、英雄が怪物を退治するという物語には価値がないとされてきましたが、1936年に行われた、オクスフォード教授J・R・R・トールキンの講演によって、物語自体の価値が世に認められ、今日、英語話者、およびゲルマン語系の民族の代表的な芸術作品、美的価値の高い叙事詩として有名です。

 

Beowulf という古英語の韻文作品は、多くのゲルマン民族の伝承で溢れています。というのも、今日の我々にはほとんど忘れ去られてしまった多くの伝説的な人物の名前が多く登場するからです。あまつさえ、この物語の中心的な事件である、三匹の怪物と主人公ベーオウルフとの戦いも、当時既に伝説とされた英雄シゲムンド(古北欧名シグムンドル)の龍退治と比較されてもいるのです。

このページの目的は、この類い希な作品のおもしろさを理解するための鍵の一つをお見せすることです。

古英語の詩でありながら、古い北欧の地を舞台とする『ベーオウルフ』には、古い北欧の文献に登場する今はなき王国や王族の名前が登場します。ここでは、古英語の名前とともに、北欧の文献に登場する名前をご紹介し、その伝説の扉を開いてみたいと思います。

史記に綴られるを拒み 記憶の霧の彼方にも 

霞みて見える伝説の 詩につくりたる詩人たち

この詩を聴きまた楽みし いにしえの古きアングルの

民と同じく我々も 耳を傾け想いを馳せん


『ベーオウルフ』に登場する国々>とその略地図

 デネ=今のデンマークにあたる王国の古英語名。

 イェーアト=今のスウェーデン南部に広がっていた王国。現在のスウェーデンにもヨットランド (Götland)と呼ばれる地方があります。

 スウェーア=今のスウェーデン中東部(ヴェーネルン湖の北東部)にあった王国。現在のスウェーデンの国名はこれに由来します。

 アンゲル=ユトランド半島中部に住んだ人々の国。イングランド人の祖先アングル人の故郷でもある。

 エーオト=ユトランド半島の広い部分に住んだ人々の国。ユトランドの「ユト」と同じで、現代英語でジュート人(Jutes)と呼ぶ人々が住んだ国。

 ヘアゾ・ベアルド=ユトランド半島の南に大陸から流れ出るエルベ川下流に住んだ人々の国。

 フリジア=今のオランダから北ドイツにかけて、ライン川河口とエムス川河口の間に住んだ人々の国。

 フランク=ライン川以南に広がったゲルマン人の一大王国。

 ウュルヴィング=現ドイツとポーランドの国境あたりに住んだと思われる人々の国。

 ウェンデル=「ヴァンダル」とも呼ばれ、ウュルヴィングの人々の東に住んでいたと思われる。

 イフズ=古英語読みでそうなるが、スペルはGifðとなります。ラテン語でゲピダエ(Gepidae)と呼ばれた、東ゲルマンの人々の国。

 

『ベーオウルフ』に登場する伝説的人物 <国別一覧>

デネの人々(Dene)

日本語名(古英語読み)

古北欧語の名前

古英語名

ヘレモード

ヘレモーズル(ヘレモード)

Heremod

シュルド/シェフ

スキョルドル(スキョルド)

Scyld / Sceaf

シュルドの息子ベーオウルフ

ベーオウ(ベーオウァ、ベーアウ

Beow(ulf)

ヘアルフデネ

ハールフダン

Healfdene

フロースガール

フローアル

Hrothgar

ハールガ

ヘルギ

Halga

フローズルフ

フロールヴル・クラキ

Hrodhulf

ヘオロウェアルド

ヒョルヴァルズル

Heoroweard

ヘアルフデネの娘

シグニィー

(Signy)

フレーズリーチ

フライレークル

Hreðric

 

スウェーアの人々(Sweon)

日本語名(古英語読み)

古北欧語名

古英語名

オンイェンセーオウ

アンガンティール(エーギッル)

Ongentheow

オーホセレ

オーッタル

Ohthere

オネラ

アーリ

Onela

エーアンムンド

エイムンドル

Eanmund

エーアドギルス

アジルス

Eadgils

 

イェアートの人々(Geatas)

日本語名(古英語読み)

古北欧語名

古英語名

ベーオウルフ

ボズヴァル・ビャルキ(?)

Beowulf

ヒュゲラーク

フグレイクル

Hygelac

このように、古英語と古北欧語の読みはだいぶ異なってはいるのですが、これは、音韻変化によることなので

私たち日本人にとってはわかりづらいかもしれませんが、慣れることが大切です(^^)。

参考文献:

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