言葉は変わる

1:音も変わる

2:音の記述 (1)母音 (2)子音

3:古英語の母音

音も変わる

「言葉」とはそもそも「発話」によって存在するのです。「音」が先にあり、その次に、その音を記録するものとして、「文字」というものが考案されました。

「発話」とは「筋肉」の活動です。言葉の「音」は、口の中の「洞」(専門用語で口腔といいます)を空気が通過し、それを周りの筋肉が少し通過経路を邪魔することで出る音なのです。

筋肉の動きというものは、何度も使っていると、なれて、無意識の動きをするようになります。これは、口腔の周りの筋肉にもあてはまります。

無意識の動きというものは、知らず知らずのうちに変化を起こしていくものです。個人的な変化は、個人差を生み、個人は、周りの人に影響を与え、周りの人は、さらにその周りの人たちへ・・・という風に、やがて集団的な変化は、集団毎の違いを生みます。

個人の変化>小集団の変化(家族など)>

中集団の変化(地域差など)>大集団の変化(国家間の違いなど)

言語の地域差も、個人の集まりです。ですから変化して行きます。

英語史とは、その変化をつづったものです。ですから、音変化をまず取り上げる入門書が多いのも、当然なのです。

音の記述

 伝統的に、人間の発話する音は、母音子音に分けて説明されてきました。

 母音とは、口腔の中を空気が止められることなく通過する音で、通過する際の舌の位置によって異なる音が発生する、という性質で区別される音群です。

 子音とは、口腔の中の空気の流れを一時的に閉ざしたり、口の中の器官に空気を擦らせて発する音群です。

(1)母音

 母音は、空気通過の際の舌の位置によると言いました。舌先の位置を変えてみましょう。舌を奥に引っ込めると苦しいですね。そこで、自然に口が開き気味になります。また、舌を奥に入れたまま、その位置を高くしようとすると、口が少し横に長くなります。そうしないと苦しいんです。発話、あるいは言葉の発声は、無意識の動きですから、なるべく苦しくないような動きに自然となっていくのです。

舌の動く範囲は、だいたい決まっていて、それをグラフのように座標軸で区切ると次の図のようになります。

cavities

舌の一番高い位置部分が座標のどこに来るかによって、種類が変わると考えられます。

例えば次の図のようにです。

そこで、下に舌の位置による母音の種類を描いてみます。

vowels

これは、いわゆるIPA (International Phonetic Alphabet) 国際発音表記というものにのっとって書いてみた英語の母音の種類です。舌の位置によって、高中低(High,Middle, Low)前中後 (Front, Central, Back)、という二つの座標で表すことが可能なのです。特に舌の位置が前か後ろかと言う問題は大切で、前(舌)母音とか後(舌)母音などという分け方もします。

英語の U は、後舌母音で、なおかつ高い位置にある、と言うわけです。私たちは、普通、英語の [u] の音と日本語の「う」はおんなじだ、と考えてしまいがちですが、実は、日本語の「う」は、上の図の、High-Central の位置になります。つまり英語の U よりも舌の位置が前に来ているわけです。

また、日本語の「ゆ」は、英語の y よりももっと舌の位置が前方になります。ちょうど英語の i: の位置で唇を丸くするといいでしょう。逆に言えば、英語の [i:] の音は、例えば、Eat it! 「食べろ!」という言葉の音は、日本語の「ゆ」の音を出す舌の位置で、唇を横に引っ張るといいのです。ためしに、「やイゆイェよ」と言ってみて下さい。その場合の「イ」は、「あいうえお」と言うときの「い」とはすごく微妙に違うのです。英語の /i:/ は、「イ」の方の音なんです。

上の図表に出てくる aimai1aimai2は、同じ音価ですが、IPAでは前者を、日本の英語界ではよく後者の記号を用いるのが慣例になっています。(ちなみに、この後者の記号は「schwa、シュワー」という名前があります)俗に、「あいまい母音」と呼ばれます。

 i とopeniは、小文字と大文字の違いかな、と思うかもしれません。これは、舌の位置の高さが僅かに違うことを表しています。後者の方が、より低い位置に来ます。必然的に口の開き方が僅かに大きくなります。そこで、openiの音を open I 「開いたIの音」と呼び、[i] の方を closed I 「閉じたアイの音」と呼びます。

標準的な現代英語では、[i] は長母音として、[openi]は短母音としてしか現れません。

そこで、eat と it は、単に長い短いの違いだけではなく、母音自体も[i] と [openi]の違いがあるはずだ、ということが分かります。

(2)子音

 子音の種類は、空気の流れをどこで、どの程度阻害するか、によります。

 まったく閉じてしまうのか、空気と口の中の器官とを摩擦させるか、などです。また、その際、のどの声帯を震わせる有声音か、そうでない無声音かということも問題です。現代英語を例にすると、次のような表ができます。音がこすれたり、空気の流れが閉じられたりする場所によって、横軸ができあがります。一方、音の流れが止まるか、こすれるか、響くのか、などという質によって、縦軸ができあがるのです。

記号は、またもIPAです。なお、「音素」についての項も参照して下さい。

この記号がどういう単語に現れるかも見てみましょう。--->

さあ、基本は以上です。それでは個々の具体的な事例について見てみることにしましょう。

9世紀頃の古英語は、次のような音体系を持っていました。

母音

 vowels_oe

ただ、このうちの音は、音素として成り立たず、スペリングには現れません。その他も、とが綴りの違いに現れないということはありました。いずれにせよ、古英語の母音はa, e, i, u, o, y, æの七つが綴りとして用いられました。これは、基本的にはラテン語の母音を表す文字を用いながら、ラテン語にはない音を表す場合に、自分たちで工夫した文字を新たに加えたということになります。