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茫洋たる道の途上で
茫洋たる道の途上で
軋んだ機械の音が轟音をとどろかせ、
大地からは人々の饒舌が溢れ出し、
都市では巨大な虚構が渦を巻いていた。
薄っぺらな喜びを飽くことなく追い求める試みが
映像となって電波に乗り、
人々の生活の上に覆い被さっていた。
そんな世界の中で
いにしえの時代に光を放った真理は
顧みられることもなく図書館の中に埋もれ、
真理を求める求道者たちは
世界の片隅に追いやられていた。
でも、彼らの響かせた音はこの世界のどこかで共鳴し、
道を求めることのなくなったこの世界の涯てで
けれど清新の滴をしたたらせている。
美しくかたどられた世界の裏では
存在の割れ目から峻烈な風が次々と吹き出しているし、
時間の断点には答えのない苦悩が凝集しているはずなのだ。
収容所で暮らした放浪の画家は
錯綜した線によって
酔いどれ船が運ぶ夢の軌跡を描き出したし、
偶然性に目を向けた即興音楽家は
瞑想的な音の曼陀羅の中に
真理を見出そうとしたものだった。
たとえ世界が欲望と欲望のぶつかり合う
羅刹たちの世界のようであったとしても
真の光を求める求道者たちが歩みを止めることは
決してないだろう。
そして、この大地に存在させられた小さな石たちは
きっと叫び続けるに違いない。
膨大な時間の瓦礫が織りなす
うっそうとしたこの世界の中で
何ものかが語り出そうとしているのだ。
でも、宇宙を形作った神は創造の神秘を秘したまま、
永劫の時間を偉大な微睡の中で過ごし続け、
破壊の神は喜悦に満ちた心で
いつか破壊の踊りを踊るだろう。
ぼくはひとりで荒野の中の廃墟の寺院を訪ね、
花が供えられることもなくなった仏頭に祈りを捧げた。
そして、不思議な音の鳴る石を打ち鳴らし、
星々の輝く空に向かって響かせ続けた。
きっと世界は明日も未来に向かって歩みを続けるだろう。
でもぼくの仲間たちもきっと
新しい音を響かせ続けるに違いない。
この荒野で、
夢の破片が語りかけるこの小さな時間の中で。
(2015.8.9 / 改訂2019.3.30)
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向殿充浩(こうでんみつひろ) / 第5詩集『疾駆する風たちに』