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名もない天使たちは

 

名もない天使たちは

傷ついた翼を断崖の上で休め、

大地では黒々とした川が

月明かりの下にうねっていた。

創造の意義を賭けて争った神々の咆哮は

時空のかなたへと去り、

冷たい大気がキーンと張りつめて

世界を覆っていた。

 

もはや羅刹たちの踊りも

魑魅魍魎どもの跋扈もなく、

経文の高貴な教えも

読経の荘厳な響きも消え、

呪術師たちの唱える

祭儀の朗誦も霧散し、

粘土板に刻み込まれた

膨大な言葉の瓦礫だけが残っていた。

 

突破することのできない世界、

時間の濁流が

ただゴーゴーと音を立てるだけの世界、

その世界の片隅で

天使たちはただ断崖の上に立ちつくし、

沈黙し、

笑いを失い、

祈りの言葉を失い、

自らの存在に向き合っている。

 

もはや何者も降り立ってこない。

もはや何者も呼びかけてこない。

この求道者たちのいなくなった世界では。

そして、神々の戦いの終わった世界では。

 

けれど、この大地には、

今なおつややかな静けさが

霧のように降り注いでいる。

天使たちの沈黙は

いつかかすかな微笑に変わるかもしれない。

 

2009.4.7

 

[付記]

 この詩は、神話『ブルーポールズ』において、ナユタが唱した詩として活用しています。(第4巻-5

 ルガルバンダとの戦いを制し、宇宙に平和を取り戻した後、再び森に帰ったナユタが、バルマン師、エシューナ仙人とともに、遺跡に登って音楽を奏でる際に唱した詩です。


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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第4詩集『土塊を蹴り』