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聖なる境界が消え

 

大地では聖なる境界が消え、

茫々とした時間が今という時を刻印している。

それは赤茶けた土の家が無人のまま放置され、

寺院の壊れた仏頭が野ざらしにされる

今日という時代のできごとだ。

 

かつて描かれた不思議な形象は

キャンバスの上で凍りつき、

静謐の中で釣り上げられた旋律は

虚空の中に霧散してしまっている。

 

その大地にあるのは

夢とあてどもない試み、

沈黙と何ものでもないものたちへの祈り、

そして、石たちに刻印される羅刹たちのための呪文だけだ。

あなたが試みた創造の意味は黒く凝り固まり、

あなたが唱えようとした真実の言葉は

風の中に霧散している。

 

だからぼくは形を描きなおす。

惨めな気持ちで、

惨めな形をもう一度キャンバスに描きつける。

木を削り、原初のたあいない音を

引きつった心に何度も何度も打ちつける。

それがぼくの試み、

あなたのいなくなった世界で孤独なぼくがなお試みる

創造への問いかけなのだ。

この閉じた世界の中で

瓦礫のように積み上げられた夢の破片を

聖なる時間に返すただひとつの試みなのだ。

 

求道者たちの言葉は消えた。

大地の光も消えた。

でもぼくはたった一つの石を今ももっている。

 

2008.6.12

 

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[付記]

 この詩は、神話「ブルーポールズ」第4巻に使われています。

 ルガルバンダに敗れたナユタが森のバラドゥーラ仙神のもとに留まって暮らす場面です。


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向殿充浩(こうでんみつひろ) / 第4詩集『土塊を蹴り』