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悪魔祓いのために
存在の表面の
きれいに結晶化した小さな時間を
天使たちがゆっくりと踏みしだいている。
青い晴れた空の下の
走りゆく車と爽やかな街路樹、
恋人たちのほほ笑みと心地よい街のざわめき。
その街角の小さな喫茶店で
ぼくは孤独な行者のように
狂気によって破壊された世界の破片を組み合わせ、
黄ばんだ古い紙に描かれた
戦慄を伴った賢者たちの言葉を
拾い集める。
けれど水晶のように冷たい時間の上では
インドラの矢が重々しい雲の中に霧散し、
大地の上では処女の陰毛への欲情が
衝動的な痙攣を続けている。
そうだ、
虚構の額縁にはめこまれた倒錯的なナルシシズムが
色彩の氾濫する山の宮殿で吠え、
ツァラトゥストラの咆哮が
形作られた存在の優美さを次々に打ち砕き、
カディッシュの忌まわしい祈りが
青ざめたカリグラフィーの奥底に潜む剥き出しのザインを
近親相姦のベッドの上に
暴き出しているのだ。
そして、土くれに等しい者たちの
止むことのない呪いの声が
遊星の上に撒き散らされ、
奇怪な顔をして踊り狂う預言者たちが
死骸を焼いた灰を
体に塗りたくっているのだ。
悪魔祓いの儀式によって剥き出しにされた傷口からは
狂った表情の亡者たちの笑いが
朦朧と立ちのぼっている。
そうだ!
神とはいったい誰であったか?
かつてモーセをして荒野に民を導き出させた神は
なんと多くの人々の上に
怒りの灰を振り撒いたことだろう。
神々を支配した青ざめたアヌは
なんと多くの地を
邪悪な酒で満たしたことだろう。
脅えきった生き物たちの呻きは
花の捧げられたリンガの回りに結晶し、
存在の表面に固化された者たちが
迷路の中をぐるぐるとあてもなくさまよっている。
ぼくは石たちを一つまた一つと掘り起した。
すると、無気味な哄笑が
原初の音の記憶の中から立ちのぼった。
ぼくはそれを少女の堅い蕾を求める
残虐な世界の維持者たる者の祭壇に投げつけ、
なにものでもない者たちに向かって
形にならない祈りを捧げる。
シッダルタよ!
新しい超韻律への試みは
世界の薄っぺらな表面を突き抜けずにはいないだろう。
そして舞い戻って来た
巨大な忌まわしい神々との対決が
再び混沌の現象世界の内で繰り広げられずにはいないだろう。
ぼくはちっぽけなぼくの図形を
大地の上に投げ捨てた。
ぼくは傷ついたぼくのつぶやきを
電磁波の荒れた波動の中に投げ入れた。
するとそれらはまたたくまに風の中に飲み込まれた。
これまで無であった世界の音たちが
錯綜した夢をなめ回している。
(1988.12.28)
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向殿充浩 / 第3詩集『求道者たちの祭儀』