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虚無の断崖で
風の中の反乱。
風の中の
荒れ騒ぐ風の中の
砂たちの反乱。
兵士たちの
流浪の民族たちの
人間によって破壊された仏たちの
砕け落ちた記憶の切片への
途方もない反乱。
けれど、太古の石は
不思議な笑いを浮かべ、
広大な地平は
宇宙のちっぽけな法則をあざ笑っている。
薄っぺらな紙片の上では
賢者たちの言葉が
言われなき誹謗によって汚され、
断崖のふもとでは
無数のトルソが
存在者たちの喘ぎの中に立ち続けている。
金色の鳥は孤独に闇の中を徘徊し、
裸の天使は流砂の中でうち震えるだろう。
閉ざされた魔法陣がぼくの中心で渦を巻き、
空の青の中では
誰でもない者たちによって
絶えまなく弔鐘が打ち鳴らされる。
ぼくの内側で展開を待っている無限図形への憧れ、
とうの昔に鳴り止んでしまった絶対者の咆哮、
虚無の祭壇の上では風化したブッダが
のっぺらぼうの時間に貼り付いている。
世界の浜辺では清澄の人の足跡を
天使たちがひっきりなしに踏みしだいている。
千年が、そしてまた千年が、
淡々と羅刹たちに食い荒らされてゆくだけの遊星。
けれど、
声は荒れ騒いでいるのだ!
存在でも非存在でもない
巨大な時間の濁流が
ガンガーの中で渦を巻いているのだ!
遊星の上から、時間の斜面から、
石たちが転がり落ちている。
どこにもない賢者たちの光輪の中で、
何ものでもないものたちの踊りが
丸い大地の上で、
陶酔しきって踊り続けられている。
世界と世界でないものとを隔てる絶壁の山のふもとでは
未知なるものへの儀式を執り行う一人の祭司が
縹渺たる風の中に宇宙的形象を祭っている。
そして存在の表面に付着した者たち、
時間の斜面で喘いでいる者たちが、
泥を練って石たちの声を紡ぎ出しているのだ。
だから、ぼくは求道者たちのいなくなったちっぽけな遊星の表面で、
空っぽの宇宙の中で、
砕けた声たちを飲み込んでゆく無明の大海の中で、
幻界の中の試みを刻印し続けるだろう。
そして、平らな時間の上に清澄の響きを打ち込み続けるだろう。
天使たちの無垢の笑いのために、
吹き払われた無名の声たちのために。
でもきっと、道の上では「ぼく」が石と化している。
あなたがそれを望んでいるのだ。
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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』