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喪の領域に・U

 

人々の行き交う褐色の道の上を

赤い花、黄色い花のうち捨てられた寺院の上を

ゆっくりと天使たちが歩き過ぎた。

 

星たちは巨大な呻きとともに

数十億年の彼方の音の記憶を照らし出し、

反逆する虫たちは

宇宙の中心で騒いでいた。

 

小さな遊星の上の

無意識だけが光であるような世界。

緩やかに存在を泡立たせる

荒涼たる風の吹き荒れる小さな世界。

 

その世界の中で、ぼくはひとつの脅威にさらされていた。

ぼくの祈りは

血の匂いのしみついたねばねばした泥土の上で

宇宙的混沌の中に還元され、

赤ら顔の預言者たちが

残虐な光景の中で

毒々しく息づいていた。

そうだ!

ニューヨークの、ロンドンの、東京の、

ネオンに輝く巨大な喧噪の下で

ぼくの呻きは

冷たい夜空に突き当たる。

そして、天使たちがいつの日か

沈黙の雪に輝く

エンパイヤ・ステート・ビルに降り立って、

積み上げられたコンクリートの朗々たる笑いに

心静かに耳を傾けることがあるかもしれない。

けれど、ダルマは

時間の中に根拠をもたないダルマは

怪鳥ガルダの飛び回る

巨大な灰色の海の中に

あてどもなく飛散してしまっている。

 

だから、ぼくは太古の音の響きわたる銀河的な宇宙を

ひとつ、またひとつと、ゆっくり砕いた。

すると巨大なエナジーが

現実を繰り返すにとどまらない

魔術的な三界の中心を貫き、

沈黙の向こうの永劫の光が

超越的なチェス盤の上を疾駆した。

 

そうだ、

インドラの矢は世界そのものを破壊せずにはいないだろう。

この世界の狂気は

シヴァによって打ち砕かれずにはいないだろう。

ぼくは祈りを捨て、

神々の粘土板を捨て、

数十億光年の巨大な宇宙の中の

ほんのちっぽけな遊星の上の

小さな波のざわめきのそばで

ゆっくりと砂の上に記号を描いた。

ぼくの声を小さな紙の上に結晶させ、

ぼくの夢を薄っぺらな大地の上に埋め込むために。

 

そしてぼくは異界と交信を通して、

世界の存在するわけを問い掛けた。

すると突然、

非存在がふてぶてしく横たわる世界の無気味さが

巨大な魔術を終わりにさせた。

ぼくはゆっくりほほ笑んで

共演者のシッダルタと共に

ガラス玉演戯の幕を引き、

ぼくの存在からゆっくり降り立った。

世界が粘土に変わっていた。

 

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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』