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トキの向こうへ

 

現在という虚ろなトキを越えて、

さざ波のように響く音の障壁を越えて、

ぼくの中のとらえきれない欲望を越えて、

あなたの中の無数の気まぐれを越えて、

人の知の領域を越えて、

非言語的な空間を越えて、

ホトケたちの冷たい表情が

石たちのよそよそしい沈黙をやり過ごしている。

 

昼の街の喧噪を越えて、

夜の庭の木立のみずみずしさを越えて、

月の不吉な光を越えて、

星座の清妙な音楽を越えて、

砕けることを知らない法輪の響きが

遠い砂漠の風の呻きの中に、

雪山の激しいブリザードの中に、

ゆっくりと還元されている。

そうだ!

世界に打ちおろされる神のハンマーを越えて、

天使たちのまなざしが今日も注がれているのだ。

 

だからぼくは

遊星の表面にしがみつき、

ひびの入った斜面にしがみつき、

空から落ちる星の滴にしがみつき、

歴史の無数の断点の中から、

創造の幻惑的なヴィジョンの中から、

あなたの意志を読みとろうとしているのだ。

 

でも絶対者の声は

曼陀羅の中にはないし、

荒野の巨石の中にもない!

古い賢者の文字の中にも、

占星術師の錯綜した図形の中にも、

典雅な数学記号の中にもない!

憤怒に満ちた寺院の彫像の中にも、

善を嘉する聖典の言葉の中にも、

茫洋たる海の中にも、

日の光のはるけさの中にも、

そうだ!

一切を創成した人間たちの奇怪な祝宴の中にもない!

 

だからぼくは見知らぬ街を黙って歩き、

とりとめのない物語をひとりひも解く。

堤防の破壊者たちの声を聞き、

道端の土偶に祈りを捧げ、

そうして

世界の外からの音のシャワーに耳を澄まし、

荒野の狼たちの声の中から、

転がり落ちる石たちの中から、

祭壇に群がる生き物たちの中から、

遊星の表面に埋もれた骨壷の中から、

凄まじい速度で溢れ出してくる響きを

無音の領域に刻印しようとしているのだ。

 

けれどすべての音は

迷路の塹壕の中で反響するだけだ!

.....

.....

.....

神が世界を形づくる以前のトキを

ぼくはひそかに待ち続けている。

 

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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』

 

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