癌とフリーラジカル

1)癌とはどういうものなのか
2)癌の発生過程
3)生体の癌の予防機能

1)そもそも癌とはどういったものなのでしょうか。

正常な細胞は、それぞれの役割を持っていて、生体の制御のもとに

その分化した機能を果たしています。

しかしながら、細胞がさまざまな外的、内的な因子によって変化を起こし、

生体の制御を離れて、自律的に増殖するようになった細胞を腫瘍(しゅよう)

細胞といいます。そのなかでも特に、細胞の分化が起こらず、急速な発育と

周囲への浸潤や転移することにより、やがて宿主を死にいたらしめるような

悪性腫瘍を癌と言います。

さらに、癌が発生した組織により、癌腫、肉腫に分けられています。

癌腫は皮膚、粘膜、腺上皮などの上皮性組織から発生したものをいい、肉腫は

骨、筋肉、結合組織、血管、リンパ組織などの非上皮性組織から発生したもの

をいいます。

癌細胞は宿主から栄養を奪い取ると同時に、トキソホルモンという毒を作って

悪液質という全身の衰弱状態をもたらします。悪液質は慢性疾患が悪化した

場合に見られる症状で、全身が衰弱し、やせ細り、貧血症状になり、肌が

かさかさに乾いて黄灰色になり、まぶたや足にむくみの症状が出ます。

癌細胞は、細胞核の大きさや形の異常が現れ、DNA量の変化や核小体の

肥大、異常な核分裂がみられるようになります。

細胞は、個々の周囲に細胞膜を作ることにより、他の細胞との敷居を作っています。

細胞膜の表面には、ホルモンや神経伝達物質を受け取ることが出きる受容体があり、

単なる敷居ではなく、外部との情報の窓口になっています。

通常の細胞は、細胞の内側にマグネシウムやカリウムが多く含まれていて、細胞外

にはカルシウムとナトリウムが多く存在します。

カルシウムは細胞の外と内の比率を見ると、10000対1になっていて、細胞の内側

にカルシウムが極力存在しないような比率を保っています。

その比率を保つための働きをするのが、細胞内のマグネシウムで、カルシウムが

細胞内に入ってきた際に、細胞の外へ出す働きを促しています。

カルシウムが細胞内に増えると、動脈硬化や結石が進行する原因にもなります。

ナトリウムは水を含みやすいため、カリウムが減ってナトリウムが細胞内に増えると、

細胞がむくんで、血管が高血圧の状態になります。さらに、神経細胞が圧迫されて

刺激され、興奮状態になります。

カルシウムの大事な働きは、細胞外にあって細胞間の情報を伝える、媒介の役目を

していることです。個々の細胞はそれぞれ情報の伝達をおこなうことにより、筋肉を

動かしたり、ホルモンを分泌させたり、酵素を活性化させたりしています。

細胞の中にカルシウムが多く含まれると、細胞間の情報の伝達に異常が生じて、

ホルモンの分泌や免疫の酵素の働きの低下、あるいは活性化しすぎてしまい、

細胞の機能に混乱が生じます。その結果、免疫が無害なものに攻撃をしかけたり

機能が正常に働かなくなります。

細胞はカルシウムを媒介にして、お互いに協力し合って生体を維持していますが、

癌細胞の場合は、他の細胞と協力する機能が失われて、自律的増殖を続ける

細胞ということができます。

2)癌の発生過程

正常細胞の遺伝子の中には、癌遺伝子が100種類以上存在しています。

癌遺伝子とは、癌遺伝子の存在そのものが癌につながるのではなく、この遺伝子に

異常が生じた場合に、細胞を癌化させる働きをするものをいいます。

本来、癌遺伝子は遺伝情報の中で非常に大切な働きをしていて、細胞の増殖や

分化に必要不可欠な存在です。また、増殖因子やその受容体を生産したり、細胞間

のシグナル伝達やタンパク質リン酸化、遺伝子の転写調整などに重要な役割を

していて、細胞の癌化を抑制する働きをしています。

ところが細胞膜上の脂質が、フリーラジカルにより過酸化脂質に変わると、この重要

な働きをしている癌遺伝子を傷つけてしまい、その修復が間に合わないと間違った

遺伝子情報が伝えられるようになります。この状態が第1段階のイニシエーション

(発現)といいます。さらに癌化を促進するフリーラジカルの傷害が、繰り返し加わる

ことにより、1個の癌細胞ができます。この状態が第2段階のプロモーション(促進)

といいます。1個の癌細胞が増殖、発育することにより、ある程度の大きさになると

癌としての病的な症状が現れるようになります。これが第3段階のプログレッション

(増殖)といいます。

イニシエーションは多くの化学物質によって引き起こされますが、フリーラジカルの

発生の度合いが高いほど、発癌性の度合いが高いことが分かってきています。

3)生体の癌の予防機能

生体はこのような活性酸素・フリーラジカルから細胞を守るために、何段階も別れて

さまざまな防御機能を備えています。

第一段階は先にスカベンジャーでご紹介した、SOD(活性酸素除去酵素)の働きに

よって、体の中にある活性酸素を発生段階で消去し、細胞膜の変性を防ぎます。

SODを活性化させるためには、亜鉛、銅、マンガンなのどミネラルが必要で、最近

話題のセレニウムもグルタチオンパーオキシターゼという酵素を活性化させて、細胞

膜の酸化を防ぐことが分かってきています。

これらの酵素の活性が弱く、活性酸素の除去ができなかった場合、第二段階として

食事から体内に取り入れた、抗酸化物質であるビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、

βカロチン、カテキンなどが活性酸素といち早く結びついて、細胞の酸化を防ぎます。

それでも、活性酸素が消去できす細胞膜が酸化され、DNA遺伝子が傷害を受けて

遺伝子情報の読み取りエラーがおきる(イニシエーション)が発生すると、第三段階

としてDNA修復酵素の働きにより、エラーの生じたDNAの修復を行ないます。

この酵素の活性には、亜鉛、葉酸、マグネシウムが必要になります。

この段階で、DNAの修復がうまく行われないと、一個の癌細胞が生まれます。

この癌細胞に対しては、第四段階として胸腺で作られる免疫細胞のキラーT細胞、

ナチュラルキラー(NK)細胞が癌細胞を攻撃します。免疫細胞を作る胸腺の働きを

正常に保つには、亜鉛が必要になります。

さらに生き残った癌細胞をコラーゲンが包み込んで、増殖を防ぎます。

このコラーゲンの作成には、ビタミンC、亜鉛、ビタミンBが必要になります。

このような生体の防御機能をくぐり抜けて、癌として発症するまでには10年、20年

といった長い年月の蓄積が必要になります。

発癌は化学物質による、強い発癌要因が大きな原因ではなく、(特殊な環境にいる

場合は除く)日常生活の中の生活習慣の積み重ねが、癌に繋がっていくと言われます。

喫煙、飲酒、ストレス、インスタント食品や清涼飲料水の取りすぎ、栄養不足、睡眠

不足、環境汚染、食品添加物、電磁波などなど、幾つもの要因が長年蓄積すること

により、長い間細胞が活性酸素、フリーラジカルからの影響にさらされ、やがて発癌

となって現れます。

つづく