サザンカ

庭の菊も終り、柿の木の実の紅が訪れる鳥に啄まれて一つ一つ少なくなり、淋しく
なった庭を飾るのがサザンカの花です。

今年のサザンカの花は例年に比べて開花も早く、何処のサザンカを見ても花着きが
良く、夜、街灯に浮き出した花姿は春のハナモモと見間違うばかり、また、白のサ
ザンカは雪が降り積もったかのようで、サザンカは何処にでも植えられている樹種
ですが、なにか今年だけは妙に見応えがあるような気が致します。

サザンカは花の期間が長く、今日この頃では、早朝、霜をうっすらとかぶり寒さに
耐えながらも咲き誇っている姿にはジーンと来るものがあります。

     霜おける屋根のかたへのさざんかの
             寒けき色をあかつきに見る    金子薫園

私の住む地域では代表的な樹種のである、ケヤキ、コナラ、クヌギ、エゴ、モクレ
ン、コブシ、イチョウ等の落葉樹が秋を彩った葉を落として、枝だけのシェルエッ
トを空に描く冬木立の時期に、サザンカの花の色が心に安らぎを与えてくれるよう
な気さえいたします。

サザンカは琉球列島から奄美大島、九州、四国という温暖な地域に原生する日本原
産の植物、学名もツバキ科の仲間で Camellia sasanqua という名が与えられていま
す。この学名の由来にはそれなりのエピソードがあるようですが省略します。
かつて、南九州では、三、四月頃にサザンカの新芽を摘み、お茶を作ったり、香袋
に代えて用いたりしたといわれています。

     山茶花はつぎつぎあかき莟もてり
             咲きをはるべきときのしらなく   中村憲吉

と歌われているように、花の開花期間は長いとは言え、それぞれの花は短命ですぐ
に散ってしまうことから、ツバキ程の人気にはならなかったようです。しかし、江
戸も元禄から文化、文政の十七世紀の始めには次第に人気も高まり、十一代将軍の
家斎公(1787ー1836年)はことのほかサザンカを愛し、サザンカの珍しい
品種を愛好されたといわれています。

葉を落として夕日にシェルエットとなって箒のような形を見せるケヤキ、太い幹か
ら枝を伸ばした姿をみせるイチョウなど冬木立が目立つこの頃、サザンカの花だけ
が色の世界を現してくれますね。

                            うめだ よしはる

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    晩秋から冬の花へ