<巻頭言>

東ティモールの女たちは、今


 今から2年前、フォクペルス(東ティモール女性連絡協議会)のメンバーのバイクのうしろに乗せてもらって、ディリの町中を走った。すると何回か、はやし立てるような声が道路脇から聞こえた。何を言っているのかはわからなかったが、メンバーに聞くと「女が男をバイクの後ろに乗せてるから」という答えだった。なるほど。バイクは男が女を乗せるもの。女が男を乗せるものではないらしい。
 昨年、ある女性の日本人NGOスタッフがディリ市内でバイクに乗っていると、車に乗った男たちに、事故をおこしかねないほど危険なやり方でひやかされるというできごとがあった。彼女はその男たちを雇っている事務所に抗議に行き、一応謝罪をえたが、女性が一人でバイクに乗っていることがひやかしの対象になる、というのはひどい。
 これらのエピソードは、タリバーン支配下のアフガニスタンほどではないにしても、女性が安心して出かけられない雰囲気が東ティモールにもあることを示している。
 第二次暫定内閣首相のジェンダーの平等に関するアドバイザーとなったマリア・ドミンガスさん(元フォクペルス総コーディネーター)は、インドネシア軍による被害に加え、東ティモール社会の封建主義、カトリック教会の家父長主義なども問題だと言う。
 3月に来日したジョビト・レゴ神父は、ある討論会で、「東ティモール人は宗教的な民族だ」と語った。その意味は、最近過激なフェミニストたちが離婚を奨励し、家族の一体性を破壊しようとしているということだった。ジョビト神父は、東ティモールではよく知られた人権派の進歩的神父であり、レジスタンスの闘士でもあった。いかにカトリック教会が女性の権利の伸張に眉をひそめているか、想像できるというものだ。
 マリア・ドミンガスさんの家に昼食にまねかれた。彼女と夫のジャシントさん、こちらは夫婦ふたり、4人でテーブルについた。あたりまえと思われるかもしれないが、実はこれが東ティモールではむずかしい。女性は客人と一緒のテーブルにつかない。いくら誘っても、一緒にすわってもらえないことが多い。
 国連が去って東ティモール人だけになったとき、東ティモールの女性の運命がどうなるか、かなり心配だ。憲法では男女平等をうたっているが、一方では、宗教を尊重し、慣習を尊重することがうたわれている。女性の権利が争点になったとき、どう決着をつけるのか。すでにフォクペルスのような女性団体は、男性たちの嫌悪の矢面にたたされ、「理解ある男」たちからも、社会的な価値ともっとおりあいをつけてうまく穏便にやっていくよう「アドバイス」されたりしている。
 本当は、試されているのは女たちではなく、男たちのはずなのだが。(松)


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