季刊・東ティモール No. 25 June 2007

アンジェリーナさん来日

松野明久

久しぶりのツアー

 久しぶりの「東ティモール・スピーキングツアー」と銘打っての企画だった。女たちの平和と戦争資料館(WAM)と東ティモール全国協議会の共同企画で、東ティモール人権協会(HAK)のアンジェリーナ・デ・アラウジョさんを4月18日から26日まで日本に招待した。アンジェリーナさんはHAKで「日本軍占領期の女性に対する暴力」調査に調査者として参加し、その後は被害者のおばあちゃんたちを年に3回定期訪問するプログラムを担当している。若い世代の東ティモール人として、彼女が調査した経験、おばあちゃんたちの現状を話してもらった。

自分も危機の被害者

 アンジェリーナさんはサメの出身だ。東部ではなく、また西部とも言い難い。そんな彼女が住んでいたディリの家は、暴徒によって略奪され、焼かれてしまった。HAKが紹介した新しい住居も襲撃され、その後移った家も焼かれてしまった。彼女は今HAKの事務所に住んでいる。夫と子供はサメの実家に預け、ディリで一人そういうところに住んで仕事をしているのだ。スピーチの冒頭の自己紹介で、東ティモールの現実を知らされる。

知らなかった「慰安婦」問題

 アンジェリーナさんは現在27歳ということだが、大戦中のことは学校でも習ったことがなく、また東ティモールには本もないため、若い人たちはほとんどこの問題を知らないという。被害者の証言を聞いたときは自分自身とても悲しくなったが、勇気をふるって聞き取りをしなければ歴史に何も残らないという思いで、インタビューをしたということだ。
 アンジェリーナさんの話は、当時の被害の事実もさることながら、その後長い期間にわたって被害者たちが過去の経験、周囲のまなざし、家族との関係などに苦しんできたことにふれていた。被害者のおばあちゃんたちの「今」が苦しいものだという、彼女自身が強く感じたことだったのだろう。
 東京でのシンポジウムでは、おばあちゃんたちのことを話しながら、涙で声がつまってしまったこともあった。
 おばあちゃんたちの様子を一人一人紹介したあと、自分がこういう話をするのは日本を恨んでいるからではない、しかし被害者の状況はあまりにひどく、謝罪と補償を求めるしかないと思うと締めくくった。
 東京では、議員会館で行われた元兵士の証言会に出席することができた。そのとき10分ほど東ティモールの「慰安婦」問題について話をする機会が与えられた。

各地のもてなしに笑顔

 アンジェリーナさんは大阪、下関、東京、仙台、安曇野とツアーをした。各地で20人から40人程度の参加者があり、東ティモールのスピーキングツアーとしてはまずまずの参加者の数だったと思う。東京(到着日夜)、下関、仙台では手作りの晩ご飯が用意されていて、アンジェリーナさんもとてもうれしそうだった。また、安曇野では及川さんの報告にもあるが、東ティモールからもってこられた豆を煎って入れられた香り高いコーヒーが、手作りのオレンジケーキとともに出された。アンジェリーナさんはコーヒーはふだんは飲まないが、そのときは飲んでいた。仙台では雨だったので教会で長靴を貸してもらい駅まで歩いて行ったが、ゴム長靴を履くのは初めてらしく、おかしくて大笑いしていた。

アンジェリーナさんについてのJapan Timesと「社会新報」の記事を今号に同封しています。また、WAMの東ティモール展の閉幕に関連して、東ティモールの「慰安婦」問題についてポルトガルの通信社(ルサ)北京支局のインタビューを古沢希代子が受けました。


みなさん、ぜひ、お買い求めください。

『東ティモール:戦争を生きぬいた女たち』
カタログできあがる

1500円

 WAMのパネル展「東ティモール:戦争を生きぬいた女たち」がカタログになりました。全編カラーで詳しい解説付き。これまで発表されたことのない多くの貴重な写真、証言、文書資料をふんだんに用いた画期的な内容になっています。展示されているパネルをもとに、カタログ用にあらたにレイアウトしなおしたり、解説を詳しくしたり、製作過程で出てきた新しい知見なども、含まれています。パネルを見た、という人も、これを読むとまた新しい発見があるでしょう。形式はカタログですが、東ティモールにおける日本占領期の性奴隷制の実態を知るための入門書として読むことができます。もちろん、インドネシア占領時代の女性の闘いや被害のパネルもちゃんと入っています。


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